新たな制度を創出する場合、カジノ施設をどう制度上定義すべきであろうか。カジノ施設とは何かを定義することは、法目的にも関係し、優れて政策的な判断になる。単純にこれを遊興賭博施設として定義することもできれば、一定の条件を兼ね備えた複合的な施設として定義することもできる。例えばフランスでは、カジノとは1)人口50万人以上の温泉地、避暑地、海浜リゾート地に設置される特例的に許諾される施設で、2)レストラン、ショー、ゲーミング・カジノの施設を備えた施設として定義され、一流のレストランやライブエンターテイメント・ショーを開催できる施設や実際のイベントや興業が行われない限り、法律上の「カジノ」ではなく、かつかかる類型以外のカジノは認められていない。あくまでも観光地における集客施設として、かつ一定のイメージを保持する遊興施設として制度的に定義したことになる。オセアニア諸国では、カジノとは観光振興、税収増、雇用増を満たす複合的開発の核となる施設として定義され、ゲーミング賭博施設を含むもろもろの集客施設の集合体の一要素として定義されている。多様な遊興施設や宿泊施設、飲食施設、ショッピングモール等の集合体として、カジノを捉える考え方は、一種の滞在型リゾート施設として、カジノ施設を把握する考えでもあり、主に米国で実務的に発展し、この米国モデルを自国にも類似的に採用しようとする考えから生まれたものでもある(面白いことに米国では自然発生的にできた考えで、制度的にかかる定義は無い。もっとも、新たな国でカジノを制度化する場合の最近のトレンドは、カジノ施設の在り方や施設群の在り方を政策的に主張することがある)。シンガポールでは、当初より、この考えを更に発展させ、「統合型リゾート」(Integrated Resort、略してIRという)というコンセプトを生み出した。カジノの集客力、収益力を施設群の中核にしつつも、ホテル、飲食、エンターテイメント、ショッピング、コンベンション施設、博物館等の公共施設等を併設したもので、多様な機能を包括する集客施設群を意味する(尚、シンガポールではIRとは施設の在り方の実務的な概念規定であって、開発事業者を招請する募集要項に要件規定として用いられたり、政策的にかかる用語が主張されたりしたが、法律上の定義とはしていない)。この様に、カジノ施設を様々な機能施設の中核的な一要素と捉える考え方は、カジノ賭博施設に対するアレルギーを緩和する効果がある。かつまた、かかる施設群全体がもたらす経済支出効果は、社会的な合意形成を図る上で、大きな効果があることが立証されている。但し、施設の構成要素を固定的に捉える考え方はここにはなく、集合概念ではあるがその構成要素を厳密に定義しているわけではない。
かかるカジノの施設定義概念の発展は、関連する投資や施設の規模を飛躍的に拡大させ、地域再開発や地域再生の要となる一つの手法として用いられるに至っている。こうなると、カジノとは賭博の為だけの施設ではなく、かつ単独に設置されるシャビーな施設でもないということになる。現代社会における基本的なカジノ施設の潮流は、①施設の大規模化、他の施設機能との融合化と多様なエンターテイメント、アメニテイー・機能を具備した施設群として全体をとらえ、あくまでもカジノをその中核施設とみなすこと、②都市や著名観光地にとり、メルクマールとなる大規模・高規格施設で、内外の観光客を惹きつけることのできる宿泊やコンベンション機能をも備えたリゾート施設と考えること、③カジノの集客力、収益力を最大限活用しつつ、そのメリットを最大化し、デメリットを極小化する複合的な機能をもった観光施設群、複合観光施設として、捉えること等にある。
統合型リゾートの考えや、シンガポールの経験は、我が国の与野党議員の共感を呼び、我が国においても、この類似的な統合リゾートないしは複合観光施設のコンセプトが特定複合観光施設として、カジノ制度の中核となることが考慮されている法案の骨格となる。この場合、設置するのは、内外の観光客、旅行客、コンベンション客を誘致できる統合型リゾート施設であり、この中において、許諾ゲーミングとしてのカジノをサービスとして提供できる施設内容になる。この意味では、「カジノ」あるいは「賭博遊興施設」というイメージからは大きく異なる施設群になる。
与野党の議員は、制度構築に対する考え方として、明確に、施設数を限定し、かつ高規格で投資規模の大きい巨大リゾート施設を「統合型リゾート(IR)」ないしは「特定複合観光施設」としてイメージしており、小規模、低規格で複数の施設が乱立する制度を前提としているわけではない。この場合、必然的に地域開発や再開発、大規模開発投資を前提にすることになる。施設として如何なる要素を含むように構築するかは、実質的に地域のビジョンを作ることになる地方公共団体による要件定義次第であろうが、地域開発の効果的な手法の一つとして、民間投資を誘引できるコンセプトであることは共通となる。但し、個別の地域毎に観光特性や地域事情が異なる以上、各地域の特性に合わせた多様なIRの施設の構成の在り方を認めることが、理にかなっているとも判断される(この考えは超党派議連の会長私案にも記載されていると共に、IR推進法においても地方公共団体の構想の尊重という表現で明記されている)。
統合型リゾート(IR)という言葉を忌避する向きも多い。昔の地方公共団体が三セクとしてリードしたリゾート法とその失敗したリゾート施設を連想するからであろうが、地域数を法律上限定し、その内容や地域指定の選定基準を明確にすれば、全く異なった概念になる。