カジノ・ゲーミングという余暇市場は、諸外国には存在するが我国にはまだ存在しない。明確に潜在的・顕在的需要はあると想定されるが、具体の市場規模に関しては様々な意見があり、必ずしも明確ではない。かつ論理的に不明確な主張も多い。
これは、
① 我が国には未だ存在しない賭博種・市場であるが故に、その顧客層と顧客による支出性向を正確に捕捉することが難しいこと(地域住民、来訪観光客、外国人訪問客等如何なる顧客層が主体となり、如何なる支出性向を示すかにより、売上は大きく異なってしまう)、
② 税務・会計上の制度の在り方や規制の厳格度の在り方次第では、顧客層と顧客の支出行動は大きく変わりうること(射幸心を規制する方針を取った場合や、賭け金行動自体を規制の対象にすれば、確実に顧客の支出は少なくなり、当然売り上げも減少する)、
③ 施設の設置総数や規模、その戦略的地点、アクセスの良さ、人口集積後背地を持つか否か、如何なる施設内容となり、如何なる顧客をどう惹き付けることができるか等が未だ不案内な事項が前提となる場合、市場の規模を中々推定できなくなること、
等の事情があるためである。
勿論、類似的な公営賭博や遊技における国民の支出性向から、特定賭博行為に関する支出性向を類推することや、諸外国における分析モデルや一定の前提のもとに経済計算を行い、我が国の市場規模を推計することは不可能ではない。但し、前提条件の考え方次第では、結果は大きく異なってしまうことを正確に理解する必要がある。経済的分析は所与の前提が正しく、固定値であることをまず考慮の前提におくために、前提条件が不案内である場合には、どうしてもその結果に対し、疑問符がついてしまうことになる(例えば、澳門、シンガポール等の外国市場の顧客支出動向やデータより、一定の仮定条件を導き出し、これをベースにわが国市場における顧客支出を類推する等の考え方になるが、あまり意味が無い。制度的環境が大きく異なりうる場合、顧客の支出行動も大きく変わるからである)。
但し、わが国における国民のかかるエンターテイメントへの一般的支出性向よりして、①明らかに一定の大きな需要は存在すること、②但し、一定の条件の下で初めて顧客の集客力や支出性向を把握できると考えられ、地域や地点、施設規模・内容次第でこれらは大きく変化してしまうこと、③新しい賭博種を比較的可処分所得の大きい新たな市場で導入する場合、当初の時点で失敗事例は過去存在しないこと等の事情よりして、相当の市場規模は存在すると考えるのが合理的な判断であろう。但し、現状公表されている数値は、期待感のみが安易に膨らみ、合理的かつ説得力のある論拠となっていない市場規模推定である場合が多い。公営競技や宝くじ、遊技等は、顧客総数、顧客賭け金総額等を一定の施設数、施設規模、運営条件の下で把握することができる。但し、これら潜在的賭博ないしは類似的な遊技(パチンコ、パチスロ)消費者の全てが潜在的カジノの顧客であるわけが無く、高規格のカジノ・エンターテイメント施設は、比較的富裕層にあたる顧客や一部外国人訪問客等伝統的な公営賭博の顧客ではない新たな顧客層を取り込むことができる可能性がある。外国人専用のカジノとか、国際飛行場におけるカジノ等の概念が主張されるのは、市場の実態や規模を無視した安易なカジノ解禁論でしかない。これらは限りなく需要や施設規模を限定した中での施設概念になり、かかるアプローチではシャビーな単純賭場施設しかできなくなる。カジノは金の卵を産むガチョウではない。但し、施設の在り方や運営の条件次第では、話題性、集客力、消費支出効果の高いエンターテイメント施設群として、カジノ施設を企画し、実現することもできる。
この様に、カジノ・エンターテイメント施設の複雑さと面白さは、その経済性、事業性、市場性自体が、制度や規制の在り方、地点の戦略性、その地点における市場性、内外からのアクセスの利便性や環境、施設自体の競合性と類似施設との競争性等、様々な要因の影響を強く受けるという点にある。この意味では、想定値として、我が国の市場総規模を推定するよりも、明確に設置総数を2~3ヶ所に限定し、地域独占が付与されることを前提に、諸条件をある程度前提として固定した上で、経済計算をしない限り、市場「規模」を把握することはできない(これを最も適切に把握できるのは、公的部門ではなく、実際に投資を行い、マーケッテイングや顧客集客戦略を担い、運営事業戦略を実践する民間カジノ開発運営事業者以外にない)。諸外国では、公的部門のコンサルタントが、他の事例から一定の条件を固定し、市場規模や売上、税収等を推定し、これらを期待値としながら、税率や運営規制の詳細を想定し、制度創出の参考にするという場合が多い。経済効果という意味では、カジノ施設群がもたらす直接的な経済効果と共に、周辺の付帯施設がもたらす効果や、雇用やかかるエンターテイメント施設が地域全体にもたらす二次的、三次的経済効果にも大きいものがあることにも留意することが必要である。
尚、わが国の市場規模を、シンガポールやマカオを参考にし、算出する考えは必ずしも適切な考えでは無い。わが国とこれら都市国家や特別区域とは、市場構造が根本的に異なると共に、カジノの市場性や市場規模は優れて制度的要因に左右されるという背景が強いからである。