わが国において新たなカジノ法制度を法律として創出する場合、如何なる手法と選択肢があるのであろうか。
刑法第23章第185条~186条は、賭博行為をなすことも、かつこれを業として提供することも罪と規定している。一方、刑法第35条は別途法律により定められる「正当行為」の場合には、これを罪としないと規定する(これを違法性阻却事由という)。何が違法で、何を合法とするかは立法政策上の課題となることを意味するが、公共性・公益性があり、一定の政策目的を達成する手段となる場合、違法性を阻却するという立場になり、現在の公営賭博関連法は全てこの論拠をもとにした制度である。一方、賭博行為自体を厳格な規制の対象としつつも、刑法上の罪とはしないように、刑法自体を変えるという考えもある(これを非犯罪化~Decriminalizationという)が、全ての賭博関連立法を見直すことをも含意し、現実的とは言えない。また、既存の法律の枠組みを、活用することにより、違法性の阻却要件を満たすことができるのではないかという主張もある。例えば、経済特区の考え(構造改革特区法)を採用する等の考えだが、違法性阻却とは、単純な経済的規制の緩和ではないわけで、一般法である刑法上の規定を規制緩和の論理で変えてしまうということは論理的にありえない。あるいは、特定の地域振興に関する既存の特別措置法の中で(例えば沖縄振興特別措置法)、刑法上の特例措置を規定すればよいという主張もあるが、これも現実的妥当性があるとも思えない。特定の地域のみに、なぜ一般法たる刑法上の特例措置が付与されるのかに関して、合理的な説明ができないからである。
刑法上の違法性を阻却する行為は、単純ではなく、やはり刑法第35条を根拠とし、そのために個別の法律を設け、その中において、違法性を阻却するに足る明確な公益性、公共性や法目的を規定し、初めて実現できるものでもあろう。かかる理由により、賭博行為を許諾する法律は、その内容自体を慎重に規定することが求められ、精緻な規制として構成されざるを得ず、立法上のテクニックスでこれをごまかすことは不可能に近い。また、かかる考えは立法政策として好ましいとも思われない。よって、カジノを新たに認める賭博類型とする全く新しい法律を作ることが、やはり適切な考え方、アプローチになる。
では、この法律はどうしたら実現できるのであろうか。理解すべきポイントは下記にあり、実現のために越えるべきハードルは高い。
① 公営賭博法は公的主体がその主催者ではあるが、公的主体自らが賭博行為に参加しないパリ・ミュチュエル賭博である。この仕組みと主催者である胴元が賭博リスクを担うカジノ賭博の仕組みとは大きく異なる。賭博種としては全く別物と考えることが本来適切で、現行法の公営賭博法制は、カジノ法制の参考とはなりにくい。公的主体は、賭博行為から一歩離れた距離を保ち、管理者として規制することの方がより適切となるからである。よって、公的主体ではなく、民を施行者とし、厳格な規制を導入することで公益性と公共性を保持できる仕組みを前提とすることが好ましいことになる。
② カジノでは、運営に関与する主体が誰であれ、関与する主体の参入は極めて厳格に規制し、かつ運営の在り方にも厳格な規律を適用すること、また、法の執行を厳格に担保することが諸外国での慣行となる。但し、我が国の現行法には、類似的な法制度はない。
③ 類例のない新しい法律となる以上、諸外国の事例をも参考とすべきだが、外国の法制度は我が国の法制度とは大きく異なるという事情があるため、参考になるとはいえ、諸外国の制度をコピーして、一つの制度ができるほど単純な話ではない。我が国の現行諸制度や法律の考え方に立脚しつつ、海外の良い所をも積極的に取り入れ、独自の制度設計が必要となる。
④ 賭博行為は現行法では違法となる以上、立法府による立法政策としてのイニシアチブが無い限り、政府・省庁がこの政策立案を推進しにくいという状況にある(利権、公務員定員制限、新たな行政組織を作ることの困難さ等より、政府・官僚側からは立法提案が出にくいということになる)。この場合、政府(省庁)が提案し、実現する閣法ではなく、一定数の議員が賛同して、法案を提出する議員立法がより現実的な手法となる。
⑤ もっとも議員立法であっても、主務省庁を決め、衆議院法制局が議員を支援し、関連する省庁との調整、政権与党内部や主要野党との利害調整等を経て、国会に上程されるのが通常の慣行でもある。政治主導を維持しつつも、行政府との緊密な協力・協働も必要で、法案策定過程でどう実施するかの枠組みの詳細検討も必須の要件になる。
⑥ 賭博行為の是非は議員個人の宗教観、倫理観等にも左右され、公党として議員を束縛できない議題でもあり、与野党間で賛成と反対に分かれる主題ともなる。この場合、議員立法をベースとし、超党派で支援の幅を広げる戦略が必要になってくる。与党も野党も意見が割れる法案となることが確実である以上、議会内部でも慎重な合意形成手順が必要になる。
新たなカジノ法制を考えるということは、単純な規制緩和で実現できるほど甘くはない。多くの人が、この単純に実現できるという幻想に陥ること自体がハードルの高さを物語っている。新たな公的管理の枠組みの中で新たな賭博行為を認めるという意味では、規制緩和ではなく、新たな規制の創出になる。