カジノ賭博に対する需要がどのくらいあるのかは、国や市場によっても異なり、如何なる制度や規制の在り方が実践されるのかによっても異なってくる。歴史上如何なる国においても、カジノ賭博が初めて施行される国においては、当初に建てられた施設で失敗した事例は存在しない。一方、例え潜在的人気があるとはいえ、かかる遊興施設がもたらす集客力には、やはり一定の上限があるとも考えられ、施設数を増やせば増やす程、需要と市場が永遠に拡大するということにはならないと想定されている。需要に見合う供給量(施設数)であることが、本来好ましいが、供給量が潜在的需要量を越えてしまえば、施設間の熾烈な競争や、顧客争奪戦が起こり、かかる競争は「賭博施設」の場合には、好ましくない影響をもたらしうるとされている。競争の結果、射幸心を過度に煽る行為や、好ましく無い社会慣行や違法行為が生じるリスクが高まるからである。また、社会政策的にも、賭博施設数が多ければ多いほど、様々な社会的問題が顕在化しうるリスクが高まることより、施設数を限定し、限られた数、限られた地点、限られた内容で、カジノ賭博を認めるという考えが世界の通例ともなっている(この意味では、カジノとは無制限に、誰もが、何処でも、自由に設置できる施設ではありえない。全ての行為が規制と監視の対象になる特殊な業になる。この事実を正確に理解している我が国の国民は少ない)。よって、カジノは単純な認可行政の対象にはならない(認可行政では、要請があり、形式的な要件を満たしていれば、全て認可されることが基本になる)。
施行数を限定し、限定した地点でのみでこれを認めるという考え方は、市場における供給量を抑制する一種の市場管理施策でもある。その狙いとは、①税収を確保するために、確実に事業性を良くし、成功させること、②供給量を制限することにより、管理しながら、安定的な市場の発展を期すること、③施設を乱立させ、競争させることの弊害をできる限り除去し、管理・監視を確実にし、公序良俗を保持した上で健全なる娯楽としてのゲームを提供すること等にある。通常の財・サービスならば、健全なる競争は、顧客にとってのサービス価値の向上や、合理的な価格形成をもたらすのだが、こと賭博行為に関する限り、この原則は当てはまらない。競争はより射幸心を煽る行為に事業者を駆り立て、かつ事業者による不法行為を誘引しかねないという側面があるために、供給量を増やして、競争を喚起することはマイナスの側面もあるということになる。
では、我が国でゲーミング・カジノ施設を設置すると仮定した場合、どのくらいの需要があり、どのくらいの施設数が最適なのであろうか。狭い国土に多くの人口が密集している我が国の国民は賭博行為に傾斜する性向は強く、かなりの施設数があっても需要を満たしうるとする意見もあるのだが、必ずしも定かではない。実際の需要動向をにらみながら、当初は限定数で始め、段階的に施設数を増やすことを検討してはどうかという慎重な考え方で対応するのが、民主党・自民党を含む超党派議連に共通した考えになる。これは、①いまだ無い賭博施設類型である以上、一挙に市場を拡大するよりも、限定的な試みでその効果や影響度を評価し、必要な場合、制度の見直しや再考を考慮し、その中で最適市場規模と最適施行数を模索すべきこと、②その安全性、健全性に関し、国民の信任を得るためには、限定的な施設数でこれを試み、段階的に発展させることが適切な考えになることという方針に基づいている。この結果、自民党は3施設、民主党はあくまでも国家的パイロット・プロジェクトとして2施設、両党いずれもが、将来的な道州制をにらんで、ブロック地域毎に最大10施設程度が可能な最大値という考え方を提示した。この場合、あくまでも、地理的な分散を考慮し、一ヶ所一施設であって、一つの地点に複数施設が許諾されるということはありえない。よって、どの程度の規模の施設が想定されるのか次第では、カジノ施設の考えも大きく前提が変わってしまうのだが、この詳細の比較議論はまだ無い。与野党の考えは、いずれも妥当な考えのように判断されるが、プラス・マイナスの効果や影響度を正確に把握するためには、施設規模、地点、環境等異なった状況にある施設を考えることが好ましいといえる。またその効果は制度上、カジノを如何なる施設として位置づけ、如何なる事業規模、収益規模、税収規模を期待するかによっても、大きく異なってしまう(尚、現在超党派議員連盟が法案上程を目ざすIR推進法案は、意図的に区域数を明示しておらず、区域数が制限されることを暗に示唆しているに過ぎない。但し、施設総数と当面の施設数を限定するという考えが与野党議員の共通した意識でもあり、この基本は立法府の意思として変わらない。最終的には、IR実施法を議論する過程で詳細の枠組みが固定するものと考えられている)。
施設数を限定するというこの基本施策は、必然的に、国が、何らかの手法、考えをもって設置場所(地点)と関連する地方公共団体を選定ないしは指定せざるを得ない状況をもたらすことになる。かつ、全ての地方公共団体がその恩恵を得られることができないことは明確でもあり、如何なる形で、公平かつ透明性の高い手続き・判断基準で「地域」を選定するかは大きな政治的・政策的選択肢になる。過去における地方公営競技の場合の地点の選定は、政治的恣意性が先行し、必ずしも公平性、透明性がある手順でなされていないケースもあった。新たな賭博法制の場合には、かかることはあってはならないと考える。