区域、施設数を限定する施策を国が取る場合で、地方公共団体にとりメリットが多くデメリットが少ない仕組みと判断される場合、当然のことながら区域設定を申請する地方公共団体が多く現れ、これら地方公共団体の間で競争が生じることになる。国が法により定めた枠組みを何とか自分の地域で実現しようとすることは、地方公共団体にとっては当然の行動でもある。公平、公正な判断基準と透明な手続きに基づき、国が一定の区域を申請する地方公共団体を指定することになるが、この場合、全ての地方公共団体が法の下に平等、かつ公平であることは、逆に自治体間における不公平感が募るのではないかとする指摘がある。
区域指定に際し、政策的効果や経済効果の大きさや規模、国や地方公共団体が享受できるメリットを重視した場合、地方の観光都市よりも首都圏等の大都市の方が当然有利になる。MICE機能を含む統合型リゾートを硬直的に定義する場合、かかる施設が実現できる可能性が高い戦略的な区域とは、東京や大阪、名古屋、福岡等の大都市圏以外は無い。かつ、自治体から選定される民間事業者にとっても、確実な市場性が期待される巨大人口集積地や後背圏に人口集積地がある地点への立地は、戦略的に優位になるため、かかる大都市のみが事業者の注目を集めてしまうということになりかねない。地方の観光都市が民間事業者の誘致をしようにも、大手民間事業者は興味を示さないかもしれないという可能性もある。かかる状況下で、実現すべきIRの区域・施設数を二つないしは三つに限定した場合、指定を巡る「大都市」と「地方観光都市」との間で競争が生じることになり、これでは公平ではないと地方観光都市がクレームする可能性は零ではない。明らかに大都市が有利になるポジションにあるからである。
上記問題は統合型リゾート(IR)を制度上どう定義し、如何なる判断基準を設けて限られた数の区域を指定するかという問題でもあるのだが、一方、大都市と地方観光都市をイーブンな競争下におくべきではないとする主張も一部地方公共団体からなされている。区域や地点の数を絞って選定せざるを得ない場合、どうしてもかかる問題が生じてしまう。諸外国では、この問題を解決するため、明らかに異なる地域の観光特性や地域固有の事情を考慮し、IRをカテゴリーに分け、カテゴリー毎に施設数を限定し、一定のカテゴリーの中で地方公共団体同志での競争が生じるような考え方を採用している事例が多い。即ち、MICE機能等想定されるIRの機能をフルセットで備えるような「大都市型IR」を定義し、大都市間のみでの競争が実現するように図り、他方では、地方観光都市における観光特性や地域固有の事情を加味した「地方観光都市型IR」をも別類型として定義し、各々のカテゴリー内で、一定数を指定するというアプローチになる。この場合、後者の地方観光都市型IRとは、必ずしも大規模であるとは限らず、施設構成要素も規模も、当該観光都市に見合った、地域の観光特性を生かした内容になることが想定されることになる。スイスやイギリスでは、地点・地域を選定する際に、大都市や地方都市の観光特性に留意し、やはり異なったカテゴリーの施設を定義し、地域・地点を選定する手法が採用された。同一に判断するにはあまりにも状況や環境が異なったためでもある。
超党派議員連盟によるIR推進法(案)は、地点・区域数を制限しうるニュアンスのみが規定され、如何なる形で区域・地点が指定されるかの判断基準や手順に際しては一切触れておらず、問題の解決を意図的に先送りにしている。今後IR実施法を検討する過程で、この問題が政治的に浮上してくる可能性が高い。但し、現状のIR推進法(案)においてもIRの構想に関しては、地方自治体の構想を尊重する旨が規定され、少なくともIRを一つの固定的な概念として定義することはしていない。地方の構想を尊重し、地方の観光特性に配慮した地方独自のIRが提案されることを期待していることになる。カテゴリー別IR分類の考えは全体数を幾つに限定するのかという問題と密接にリンクするが、この考えを導入することができれば、大都市対地方観光都市が対立する競争の構図は無くなり、IRの実現を希望する地方観光都市にとっては、より公平感が高まる選定になることが想定できる。また、地域振興や地域活性化を試みる一つの有効な手法として、地方選出の国会議員にとっても、法案に賛成できる大義名分が生まれることになる。