カジノの制度議論が始まる場合、必ずといっていい程でてくる考え方の中に、わが国でのカジノは当面外国人専用カジノとしてはどうかという考え方がある。即ち、日本人や地域住民の参加、入場を認めず、来訪観光客としての外国人や本邦居住の外国人のみを対象として賭博行為を認めるという考えになる。この場合の目的は、外国人観光客誘致であり、外国人に賭博支出をさせ、外貨を獲得するということになるのであろうが、前時代的発想でもあり、開発途上国ならともかく、先進国たる日本が考慮する価値は殆どない。かつ、これでは例え実現しても、事業性の無い、シャビーな施設しかできそうもなく、確実に失敗する公算の方が高い。
なぜであろうか。
カジノの法制度を創設することは、様々な反対論や懸念を乗り越えて、わが国には未だ存在しない新しい類型の賭博行為の在り方を議論することを意味する。地域社会に、住民にとっても身近な 所に賭博施設ができるというだけで、様々な社会的事象に対する懸念や不安がどうしてもでてきてしまう。勿論現在考慮中のカジノとは、単純な賭場ではなく、統合型リゾート(IR)の一要素なのだが、国民の目から見れば、単なる誤魔化しのように映ってしまう。かかる事情により、利害関係者や国民を説得し、国民の不安や心配を除去するという結構時間のかかる手順を必要とする。一方、外国人のみを対象とするということは、自国民を排除するという考え方でもあり、自国民の間に生じうる様々な社会的問題を一切遮断し、議論をしなくてもよくなることを意味する。極めて限定的な状況の下で、限られた主体に対してのみ賭博行為を提供することは、そのインパクトが外部に漏れるということは限りなく限定できるという効果をもたらすことになる。もっとも、この考えは何のためにカジノを作るのか、カジノは如何なる効果をもたらすか等何も考えず、問題への対処を考えることを忌避し、とにかくカジノさえあれば良いという発想から来ている考え方でしかないことが多い。
我が国を来訪する外国人旅客は現状約860万人程度であり、これを1,000万人、3,000万人に伸ばすという計画はあるが、全ての来訪する外国人観光客がカジノ遊興施設に来訪するわけではない。かつ、カジノ遊興施設があるというだけで、これがどの程度来訪外国人旅客を上乗せすることができるかは、地点や施設内容等にもよるが、限られた効果しかあり得ないとするのが通常の判断になる。施設がある地点・地域に来訪客が宿泊することがかかる施設に立ち寄る前提になると考えられ、これはおそらく来訪観光客の1割程度であろう。これでも数としてはかなり野心的なものになる。来訪観光客2,000万人でも、この1割では総数としては少なく、設置される2~3ヶ所で顧客が分散すると考える場合、個別施設毎の訪問客は更に少なくなる。競合が無く、大きな投資を伴わない施設で、外国人観光客にとりアクセスの良いい大都市や著名観光地ならば、一定の事業性を確保できると想定されるが、一般論として、顧客層を外国人のみに限定する施設は、余程の環境が整わない限り、ペイしなくなる。韓国では16の外国人専用カジノがあるが、大都市となるソウル、プサン以外は全て赤字で事業性は全く無い。韓国に来訪する外国人旅行客は日本より多く2012年は年1,100 万人に達する。一方、この中でカジノに来訪する外国人旅客は多く見積もっても略2割、約220万人程度でしかないとされている。これを16の施設で分け合えば均等に顧客が言ったと仮定すると施設毎では年14万人で、一日あたりにすれば400人にも満たない施設となってしまう。これでは大きな施設も投資も全くありえないことになるし、外国人をある程度確実に集客できる交通利便性の良い戦略的地点、即ち大都市でなければ、まず事業性はないことは明らかであろう。カジノさえ作れば外国人顧客は来る、確実に事業性はあり、ペイする、しっかりとした設備もできれば経済的波及効果もありうるなどと考えるのは妄想以外の何物でもなく、現実を無視した考えでしかない。
顧客層や施設区域を限定し、一般市民や国民にとり、アクセスできないか、アクセスに極めて時間と費用がかかるカジノ施設の場合には、恐らく集客戦略はうまくいかず、当初の経済効果を期待することはできなくなる。かつまた、かかる条件や前提を厳格に制限した場合には、おそらく民間投資家は巨額な投資をもって、複合観光施設を設置することはあり得ない。この意味では、外国人専用カジノでは、地方振興とか地域再開発を関連する民間事業者に期待するには大きな矛盾があるといえる。複合観光施設とは、内外の顧客を差別せず、アクセスの良い、あらゆる魅力を保持した高規格施設であるべきで、8~9割の顧客は日本人、1~2割が来訪観光旅客というイメージで、初めて消費を活性化させ、かつ集客力を保持し、事業性を確保することができるものであろう。健全な対顧客戦略がベースにあり、初めてIRは生きる。まず施設ありきの発想では、うまくいくはずがない。
尚、現在、超党派議員連盟が考慮中のIR推進法(案)、IR実施法(案)は、当然のことながら、顧客層を外国人に限定するような制度の考え方を前提としていない。外国人専用カジノは、問題外で、中途半端な施設を作る政策的価値は全く無い。