空港は、一国と外国とを繋げるゲートウエイ施設でもあり、その地点の戦略的性格如何では、ハブ空港として国内の拠点と海外とを結ぶ重要な交通施設ともなる。飛行機とは遠距離にある都市と都市を連結する交通インフラであり、空港はそのゲート・ウエイという位置づけであろう。確かに多くの海外旅行客や国内旅行客が集うという機能が空港にはある。この空港の内部あるいは空港の隣接区域に、IR(統合型リゾート)ないしはカジノ・エンターテイメント複合施設を設けるべきとして、誘致活動をする民間主体や政治家が存在する。果たしてこの考えは現実的、かつ適切といえるだろうか。
空港内におけるカジノ施設という考えは①一端税関を通過すれば、免税エリアでもあり、国内とは隔絶した空間を構成でき、様々な社会的インパクトを軽減できること、②空港は内外の顧客が一定時間そこに滞在するという集客機能を保持し、この滞在時間を活用し、カジノの営業ができうることという前提から成り立っている。一方臨空地域におけるカジノ施設の考えとは、①臨空地域の再開発、活性化、②余剰土地の利活用、③潜在的集客施設としての空港の活用という視点からの発想なのであろう。勿論この考え方が合理的になるというケースもあるのかもしれないが、一般論としては、果たして合理的な集客が実現するか否かに関しては懸念が残る。
空港内部や、空港臨空地域等に、カジノ施設やIRを設置しようとする考えは、やはり、空港が一定の潜在的集客力がある施設であること、内外観光客が集中して集まり、地域住民からかなり隔離された環境でカジノを営業することができるという背景があるからであろう。かつ、一部のわが国の空港は、フライト数減少等様々な経営的課題を抱えており、かかる遊興施設ができ、来訪客が増えることが、飛行場自体の採算を上げるという、本末転倒の考え方をもって、カジノ施設を誘致しようとする意見すらある。あるいは臨空地域に膨大な未利用整備地が存在し、ここに何等かの産業を誘致したいとする単純な考え方も存在する。一方、我が国には都市に隣接したハブ機能を保持する国際飛行場は限定されると共に、飛行場迄のアクセスは必ずしも良くなく、十分な集客力がある施設となるかに関しては懸念が多い。また、入・出国客でかかる施設に立ち寄る酔狂な顧客がいるのか否かは大きな懸念があると共に、空港内部に作ったとしても、トランジット客はかかる支出をする時間があるのか等に関しても、大きな懸念がある。空港はゲート・ウエイではあるが、顧客がそこに滞留する集客施設ではない。空港利用客はできる限りぎりぎりに空港に行き、空港に到着する客はすぐさま帰宅するか目的地へ行くはずで、空港に滞留する時間は基本的には限られている。顧客が空港に数時間、大量に滞留する施設とは乗継客を大量に抱える所謂ハブ空港のみであり、通常の空港ではかかることはありえない。
勿論、飛行場の隣接区域の再開発絡みという発想は上記とは異なるが、集客力、交通アクセス、資金距離に一定の人口集積地の存在等の諸条件が満たされない限り、事業性のある施設概念とはならない可能性が高い。
海外における事例でよく参照される空港内カジノとしては、オランダのスキポル空港がある。確かにオランダのスキポル空港は巨大ハブ空港で空港内部に何でもあり、Holland Casinoが運営するカジノ施設も存在するが、規模も小さく、顧客も限定され、とてもペイする施設であるようには見えない。世界で最も成功している空港内カジノは、ラスベガスのマカラン空港であって、これは特殊例でラウンジや手荷物受取所等あらゆるスペースにスロット・マシーンを設置したもので、旅客の余った時間、余った小銭を短時間ここで消費するというコンセプトに近い。臨空地域における都市開発や地域開発の一環としてカジノホテルを設けるという発想は、韓国インチョンに外国人専用カジノとして実現した。但し、臨空宿泊施設に泊まり、ソウル市内で観光したり、ビジネスをしたりするにはやはり不便であるとの感を免れず、集客効果は限定される模様だ。余程の目的志向がある顧客か、空港周辺に宿泊せざるを得ない事情がある顧客が主たる顧客になるはずで、果たしてこのコンセプトが成功するか否かは、施設の実際の魅力、集客力やマーケッテイング努力にも係わってくる。
尚、2013年度通常国会において、政府は国管理空港の民委託を可能にする法案を上程し、6月に可決、成立した。この法律に伴い、コンセッション・リース方式により空港の民間運営が可能になる。この枠組みを活用し、臨空地域や空港周辺の再開発を狙い、空港自体の活性化を企図するためにカジノ、ホテル、会議場等を含む複合エンターテイメント施設としてのIRを設置してはどうかとする考えもでてきている模様だ。但し、これは空港の集客力に期待しているのか、あるいはかかる施設を設置することにより空港への集客力が増すことを期待しているのかの軸足が極めて不透明な考え方になる。カジノさえあれば何とかなるという甘い構図が透けて見えるスキームでは、まず実現の可能性はほど遠い。カジノは付随的なアメニテイーでしかない。これだけで、空港の付加価値が向上することにはならない。