カジノ施設はそれが初めてできる国においては、過去失敗したことが無いといわれている。余暇に対する需要がある国で、かかる余暇施設に対する供給が限定されている場合には、当該施設は独占的に顧客を囲い込むことができるからである。一般的に制度上の施策として、施設数を市場全体で制限する場合、確実に事業性を高めることができる。もっとも、カジノさえ存在すれば、確実に集客でき、成功は約束されるというものでもない。単純賭博施設で、初期投資資本も限りなく限定される低規格の施設であったとするならば、かかる考慮も必要ないのかもしれない。但し、前提が、統合型リゾート(IR)のように、カジノ施設と共に、宿泊施設や会議施設、コンベンション施設等の様々なアメニテイー施設を含む場合には、巨額の開発投資を必要とし、この投資コストを回収するためには、集客力を高め、事業性を高める様々な前提条件が必要であると共に、様々な与件や工夫も必要になる。
一般論として事業性を高める要件や与件は下記等にある。
① 当該地点における一定の地域独占が付与され、話題性、集客力のある施設群であること:
健全なる施設間競争があり、初めてカジノもサービスが向上し、事業性も高まるとする意見もあるが、こと賭博分野に関する限り、これは少数意見になる。事業を成功させ、確実に税収を上げさせるためには、競争を制限し、消費を特定地点に集中させることが効果的になる。この意味では、特定事業者に実質的な地域独占権を付与することにより、効果的な集客、消費と税収を期すことができる(尚、地域独占権を与えずとも、市場における全体施設数を限定すれば、実質的にこれは独占権を構成する)。
② 後背地に人口集積地があり、これらからの交通機関アクセスが短時間で確保されており、かつ内外の顧客を集客でき、短時間に飛行場や高速鉄道駅等へアクセスできる地点であること:
大規模なMICE機能を含むIRである場合、やはり、内外の顧客にとってのアクセスや移動の利便性、これが可能な戦略的地点、でかつ、後背地に都市・人口集積地が存在する地点であることが必須な要件になる。集客を可能にするインフラ施設が具備できる地点でなければ、集客力は大きく削がれることになる。
③ 観光客、地域住民を等しく惹きつけることのできる多様な魅力と機能を持った施設群、施設としての魅力と高規格性、どこにもないアイコニックな施設、行ってみたくなるような施設、また行きたくなるような施設として統合型リゾート(IR)を企画し、実現すること:
人を惹きつける魅力や斬新性、話題性を発信できる高規格な施設であることも重要な要件になる。施設自体が多様な機能を包摂し、集客力を発揮できることも必須の要件になる。余暇施設は楽しいから集客できるのであって、様々な顧客に対し魅力を発信できる施設であってこそ、初めて多量の集客が可能になる。
④ 多様な顧客層の需要を満たす、十分なインセンテイブや、柔軟な制度設計と施設運営に関する規制が制度として確保されていること。カジノを核として、多様なビジネス客、ファミリー観光客、地域住民、老若男女等を分け隔てなく集客できる機能を備えた施設群であること:
観光とビジネスの融合を企図し、MICE機能を効果的に取り込むことにより、消費単価の高い、滞在日数が連泊となる顧客を効率的、効果的に集客することができる。一方、ファミリー層を対象とした様々なエンターテイメントやアメニテイーの充実化と多様なサービスの提供は、別の観点から消費性向の高い顧客の集客を可能にする。老若男女を差別しない多様なアメニテイーの在り方はリピーターを増やす効果をもたらすことができる。
統合型リゾート(IR)は黙っていても自然に実現できるというものではない。対象となる地点には、一定の観光資源や集客力の要素があることが前提でこの前提に立脚し、予め集客のための戦略を立て、集客とかかる顧客による健全な消費に成功して、初めてその事業性を高めることができる。巨額の投資を前提とする場合には、しっかりとした戦略とその実践が無い限り、失敗する確率も高いと判断すべきであろう。