運営に係わる免許はや認証・認可行為を制度的にどういう性格のものにするかは、立法政策上の大きな選択肢にもなる。国による厳格な審査を経た民間事業者のみが法律上の施行者たりうるとする場合、誰もが施行者たることはできなくなるが、国による免許、認証ないしは認可の性格やあり方次第では多様なあり方のバリエーション(変形)が考えられ、これが立法過程で議論の対象になる可能性がある。勿論これらを規制したり、禁止したりすることは政策的な選択肢になる。一方、曖昧な規制の在り方であったりする場合、多様なバリエーションを認めてしまうリスクもあり、一定の判断基準の下に何が可能で、何が禁止となるかを予め定めておく必要がある。
例えば、一端、国が特定の地方公共団体の申請を認め、特定複合観光施設区域を指定した場合、区域指定がなされた以上、一つの区域の中に複数の競合しうるカジノ企業を誘致してもよいではないかとする意見がある。あるいは認証を得た単一施行者が同じ区域にて複数の施設を設置できるのではないかという意見もこれに類似的な考え方になる(一区域複数事業設置)。これは、区域自体が指定である以上、同一区域内で、複数の異なったカジノ企業、あるいはカジノ施設を誘致できる権利あるいは可能性があるはずと考え、これを実現し、お互いにサービスを競わせ、最大の経済効果を期すという考え方になる(諸外国における複数の施設が一定区域に集合して、競合しあう状況をイメージしているのであろう)。あるいは、国から民間事業者が取得した認証・認可を当該民間事業者がサブ・ライセンスすることにより、同一区域内においてこれを第三者に売却したり、譲渡したりすることにより、実質的に複数のカジノ施設を設けてしまう考え方等を言う(一免許複数施設設置)。前者は、これでは複数の施設を一つの複合観光施設区域に設立することと同じになってしまい、全体施行数を国が管理し、限定するという施設数限定の考え方を無視する考え方になってしまう。後者は実質的に、国の機関が精査の対象にしていない民間事業者が特例的に施行者の下で、施行の枠組みの中に入ってしまうことを暗示してしまう。いずれも、「区域」や「認証・認可」の考え方を拡張的に解釈してしまう考え方になり、適切な考え方ではない。類似的な考えとして、カジノを施行する民間事業者と下請け協力会社ともいうべき第三者の民間事業者が、一種のリスク・シェアリング方式により、費用と収益、リスクを分担することにより、実質的に施行の枠組みに入ってしまう考え方等がある。例えば、マカオや韓国、カンボジア等の一部施設に散見されるVIPルーム貸出の如き考え方で、施設の一部屋をそっくりそのまま第三者に貸し出す考えをいう。認証を受けた主体が表には立つが、実際のリスク・運営を担っているのは、(精緻な認証の対象とはなっていない)第三者になってしまうことになる。同様に、ゲーム機械群の運営に関し、カジノ事業者と機械の納入業者・製造業者との間でリスク・シェアリング方式により、リスクと収益を分担する形でその運営を取り決めることも、機械の納入業者・製造業者が実質的に認可施行者と同じ扱いで運営に参加してしまうことを意味する。
いずれも一つの制度的枠組みを拡張解釈し、実質的な民間事業者参入の幅を拡大してしまうことをもたらし、下記問題を抱える。
① 施行総数を実質的に増やすことは参入規制の逸脱:
民間事業者に対する免許は、一地域、一施設が原則であり、厳格にその対象、目的が限定されることが基本となるべきである。また、この法律上の地位は当然譲渡や担保の対象とすることはできない。付与された一定の免許を拡張解釈し、複数の施設を実現したり、第三者となる他の事業者への全てないしは一部の権利の譲渡等ができたりすることを前提としたならば、ここに規制当局による適格性審査の対象にならない民間主体が参入してしまうリスクがある(これでは何のための審査・免許か解らなくなる)。この意味では、一免許複数施設も一区域複数施設もありえない前提になる。
② リスクとメリットを分担しあうことは運営への参画と同一:
カジノのゲーム進行に関する運営上のリスクを第三者と契約的に分担しあい、この対価として施行者が経済的メリットを取得することも、経営・運営に参加することと同等と見なされるべきで、安易な形で認められるべきではない。カジノ施設の運営や経営に対し、例え部分的でも何らかの影響力を行使できる経済的インタレストを保持している主体は、当然直接的な利害関係者と見なされるべきであり、単純な形でかかるリスク・シェアリングを賭博の運営行為に対し認めるべきではない。プリンシパル(免許主体)とエージェント(周辺サービス提供主体)とを混同すべきではない。施行を担う主体はプリンシパルであって、エージェントではありえない。
以上の様に、カジノの運営に係わる免許とは、本来制限的であるべきで、何でもありではない。また国による地方公共団体の指定とは、地方公共団体にカジノの設置を自由に認めるものでもない。カジノの施行は、本来制限的であるべきで、制度は作りさえすれば何でもできると考えるのは、あまりにも現実を無視した妄想でしかないことに留意すべきである。