賭博施行や賭博施設の経営・運営の要点は、安全性・健全性・継続性が担保されていることにあり、当該事業が常に安定的な財務状況を保持し、初めて健全な運営が行われると考えるのが通例である。民間事業者が施行者となり投資や運営の全責任を担う場合には、当該事業者に十分な資力や経済力、あるいは資金調達力があり、かつ信頼おける主体であることが全ての前提となろう。さもなければ、巨額の投資行為を実行できるわけがない。一方、カジノは免許事業ではあるが、その本質は営利事業に過ぎない。事業の運営段階になって、何等かの環境変化や状況の変化により、金融機関に支払う元利金や費用・減価償却等を実際のキャッシュフローで賄えなくなってしまう状況が生じたり、資金ショートや、様々な環境要因等により、事業の存続が疑問視されたりする事態が生じるリスクは零とは言えない。もし、かかる事情が生じたとするならば、特定複合観光施設区域と、特定複合観光施設、またその中におけるカジノは、如何なる形で継続性を担保することができるのであろうか。協定の主体となる地方公共団体にとっては、事業が安定的に運営され、継続されることが、カジノが存続しうる前提である。但し、カジノ部分は、順調な運営をしているにも拘らず、他の事業部分を起因として債務不履行事由等が生じてしまう場合にはややこしい状態になる。
現在考慮されている超党派議連の考え方をベースに考えると、一般論として、カジノが破綻しうる理由とその基本的対処手法には下記がありうる。
① 主務大臣が自らの事情、政策判断により特定複合観光施設区域の指定を取り消す場合:
国にとり地域指定を取り消す合理的な理由は殆ど無い。但し、区域を設定し、相当の期間を経過してもIR実現のための手順がとられていない場合、あるいは政策変更が起こり、賭博行為は禁止すべきとする政治的判断がありえた場合には理論的に国の一方的判断による指定の取り消しはありうる。これは、当該区域におけるカジノの仕組みを崩すことを前提とした国の判断になる。地方公共団体には責任は無く、民間事業者にも瑕疵や債務不履行が無い場合で、一方的な国による事情の判断により免許取り消しとなれば、民間主体には行政訴訟により補償を求める救済手法しかない。
② 民間事業者による不法行為、違法行為により、規制機関たるカジノ管理委員会が民間事業者の免許を停止したり、剥奪したりする場合:
民間事業者による違法行為、不法行為等により、国の規制機関であるカジノ管理委員会が当該民間事業者の免許を剥奪ないしは取り消す場合で、相当の重大な法律違反行為があった場合である。通常かかる行為は、地方公共団体~民間事業者間の開発・運営協定の重要債務不履行事由を構成し、当該地方公共団体も、当該契約を解除し、損害賠償請求を興すことができる。同様に民間事業者と金融機関との間の融資契約も期限の利益の喪失事由になる可能性が高い。一方、国から特定複合観光施設区域の指定を受けた地方公共団体の地位は変わらないはずで、当該自治体は、国から一定の猶予期間を取得し、資産を保持する金融機関と交渉し、当面の営業と資産劣化を防止しつつ、新たな事業者を公募し、選定される当該事業者に金融機関が保全した資産を買い取らせることを前提とし、事業の承継を図ることができる(勿論別途国が新たに選定される事業者を認証することが必要となる)。
③ 民間事業者が地方公共団体との開発・運営契約における債務不履行事由、あるいは融資契約上の期限の利益の喪失事由に基づき、契約ないしは融資契約を解除される場合:
所謂民間事業者の経済的破綻・破たん等の事象になり、上記と同様に、地方公共団体との開発運営契約、融資協定が同時に債務不履行事由になる事象になる。また、経済的破綻をした主体がカジノの運営を継続することは全く好ましくない事象になり、これは国の規制機関による免許剥奪事由にもなる。この場合には、予め取り決められる地方公共団体と金融機関との間における直接契約が胎動し、融資金融機関が資産を保全、その運営を維持し、地方公共団体・金融機関が国の規制機関(カジノ管理委員会)より猶予期間を得て、上記と同様に、一定の期間内に新たな事業者を選定、資産と事業を継承せしめ、別途国から認可を取得させ、事業の承継を実現することになる。
④ 民間事業者と地方公共団体との開発・運営契約が、地方公共団体の一方的な理由によりを解除される場合:
当該開発・運営契約において、地方公共団体が担うべき義務は極めて限定されるため、地方公共団体による義務不履行による契約解除の可能性は限りなく存在しない。一方国と同様に、事情の変更により、当該地域においてカジノを施行することは好ましくないという判断が生じる可能性も零ではあるまい。この場合も、①と類似的な帰結になり、カジノの仕組み自体が当該地域において崩壊することになり、地方公共団体にとり補償が必要となりうるが、これは地域社会にとっての選択肢であろう。
上記は、国と地方公共団体、国と民間事業者、地方公共団体と民間事業者のいずれかの一つの枠組みが崩れる場合、全体の枠組みが機能しなくなることを示唆している。起こりうる可能性は極めて限られる事象となるが、ありえない事象とはならないため、予めその対応措置等を考慮しておくことが必要となる。