では国として如何なる具体的な対策を考慮すべきであろうか。下記諸施策を包括的施策として講じるべきであろう。
① 定期的統計的実態調査の実施:
政策を立案する前に、まず他国の事例や共通的手法等を参照にしつつ、統計調査手法を確立し、他の賭博種も含めて、正確に賭博依存症に関する社会の実態を把握する必要がある。本来実施すべきことがやられていないだけであり、予算を確保し、カジノ制度を創出する前の時点から、定期的に、同じ手法で全ての賭博種並びに賭博に類似的な遊技を対象として、定点観測により社会の実態を把握する必要がある。
② 主務省庁の選定:
依存症問題に対応できる責任主務官庁を指定する必要がある。本来、厚生労働省がこの任を担うことが適切だが、2011年における超党派議員連盟と同省の議論の中では、複数省庁が関係しうる問題として、薬物問題と同様に、内閣府で問題を抱え、厚生労働省はその下で汗をかくという考え方が同省から提示された。諸外国では、賭博依存症等はプロセス依存とも呼ばれている精神疾患と定義されているが、精神疾患と認めること自体が様々な問題を引き起こす為、消極的な態度をとっているものと判断された。厚生労働省が積極的でない場合は、内閣府が主導をとり、様々な省庁・関連主体と連携・協調しながら対応を図ることが適切となる。
③ 組織的に対応できる体制の整備:
現状は自助グループやNPO、任意団体、一部の医療機関や精神病治療機関等が賭博依存症問題への対応を実践しているのみで、その動き自体が小さく、かつバラバラで整合性、一貫性のある動きではない。かつ、対応できる体制は圧倒的に不足しているとみられている。先進諸国では、国としての中立的な対応機関を設け、これが(政府省庁ではできない)戦略や施策を策定したり、様々な主体との総合調整や補助金配布に関与したりしている事例がある。あるいは、民レベルで対応できる財団や非営利団体を組織化させ、類似的な機能を持たせることも行われている。わが国においても、政府の施策を実践できる何等かの国の枠組みを創設し、これを中心に様々な政策の調整や実践を担うことが求められている(場合によっては、省庁は方針・戦略策定に徹し、実務的な総合調整は、このための国の機関、あるいは民の参画も得た財団等を新たに設け、これに委ねる等という手法もある)。
④ 中長期計画と戦略・行動計画の策定:
調査に基づき現実を正確に把握し、問題を予防し、抑止し、かつ発生した場合のインパクトをできる限り縮小化し、問題を解決できる中長期的な計画を立案すること、これを年単位レベルで実践する戦略とマイルストーンを国として構築し、戦略とその実践の進捗状況を評価する仕組みを導入すべきである。勿論このために、財源を確保し、実践を担うことができる体制が整備されていることがその前提になる。
⑤ 公衆教育・防止・予防のための一般教育と情報の周知徹底:
最も効果的な防止・予防策は、依存症とは全く関係のない一般大衆に対し、賭博依存症の危険や問題の周知徹底を図る公衆教育をっ実践することにある。事業者の協力を得て、防止・予防のためのプログラムを策定し、これを実践することが適切であろう。
⑥ 事業者レベルでの防止・予防プログラムの策定支援、職員教育訓練、問題防止策の徹底:
制度として事業者に義務付けるか、あるいは事業者による自主的な試みに委ねるかの選択肢はあるが、民間施行者は現場レベルにおいて様々な依存症対応プログラムを実践できる。例えば、自己排除や家族排除プログラムの実践、カウンセリング体制の具備などと共に、従業員の不断の訓練により、依存症の症状を呈する顧客を特定化し、顧客の遊びをやめさせるように仕向けるなど問題が深刻化する前に対応策を取る等様々な対応が可能になる。
⑦ カウンセリング対応窓口、カウンセリング体制・治療体制の具備、人材育成:
依存症状を自覚する顧客に対する無料カウンセリングや電話による相談(ヘルプライン)の設置等の体制を事業者ないしは専門的な機関が設けるべきであろう。勿論この前提として、カウンセリングや治療等を担う人材を組織的に育成する必要がある。また、カウンセラー資格認定等の制度を設け、中長期的にこの分野の人材を育てる必要性もある。
⑧ 現場レベルでの協調と協働の在り方(事業者、カウンセラー、治療主体等):
現場レベルでの、事業者、カウンセラー、自助組織、治療主体等様々な主体が協調し、共同して、セフテイー・ネットを張ることが重要になる。協働の枠組みが存在し、初めて様々なプログラムが機能するようになる。
即ち、まず実態を把握し、これを下にどうすべきかの計画や戦略を立て、そのための体制と財源を確保し、戦略を段階的に実践するというサイクルになる。