賭博行為は、確率的に胴元に巨額のキャッシュフローと利益をもたらすことになる。ここに着目して、特定の民間主体にその施行を認めることにより、当該主体に特別課税や、納付金を課すことで、新たな財源を捻出することが様々な国において、制度創設の一つの目的となっている。法律上の施行者が民間主体となる場合には、通常の企業所得税とは別個に、費用控除前の胴元売上(総粗収益、Gross Gaming Revenueという)を対象として、特別に一定率を課税する、あるいは納付金・交付金として一定率を国または国の機関が徴収するという形を取る。この様に、新たな財源を確保する手法には、①税として徴収する手法と、②交付金や納付金等、税以外の名目で徴収する手法がある。また国や地方公共団体等、複数の課税主体が、一定の課税許容範囲内で各々かかる税ないしは納付金等を徴収することもありうる(あるいは予め制度として配分率を定め、国が代行して、徴収し、後刻配分するという考え方もある)。尚、税として徴収する可能性は、既存の税制を活用する手法と、新たな税を制定する考えとに分かれる。前者は、賭博行為を顧客に対するサービス提供行為と定義して、施行者の売上に対し、既存の付加価値税や消費税を課す考え方になる。この場合、税率は所与となり、かつ、一般法の枠組みの中で賭博法制の事情とは関係なく、税率が増えてしまう(増税となる)リスクがある。後者の様に新たな税を制定する場合には、我が国では、担税力や公平性等なぜ課税するのか、また如何に課税するかの議論が必要であると共に、現政権でも党税調・政府税調の議を経る必要があり、手続き的には、賭博税制とは離れた所で、その目的、税率、使途等を議論せざるを得なくなる。よって、複雑になり、時間がかかってしまうという事情がある。
一方、これとは別に、当該賭博を認める制度の枠内で、税としてではなく、交付金や納付金として徴収することを特例的に取り決め、国やその他の公的主体が、これを徴収することもできる。これは現行の公営賭博制度で採用されている仕組みでもあるが、どう徴収するかに着目する場合、制度としては下記選択肢がある。
① 国庫(一般会計)に直接納付する:
中央競馬やTotoにおける国庫納付金の如き考えになり、収益の一定率を施行者が申告に基づき、直接国庫(一般会計)に納付する仕組みである。極めて単純、解りやすいが、国民にとっては、直接のメリットとは感じないという難点がある。特定財源にしないという点では、現行の国の施策に添う手法になるが、政治的には面白くない選択肢でもあろう。国民に対するアピール力は欠けるからである。
② 法が定める特定目的の為に収益の使途を限定し、一般会計ではなく、特別会計を設け、この特別勘定に交付金ないしは納付金を収納させる:
行政改革の流れの中で、特別会計は、不透明な支出の温床と見なされ、原則廃止という方向性が、「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成十八年法律第四十七号)により定められている。この意味では、特別会計を設けることは時代に逆行するが、かかる判断を認めるか否かは、本来立法政策上の判断であろう。賭博関連の収益は、財源的にはプラスアルファの国にとっての収益と考えるべきで、政治的には、通常の予算措置では充分財源が行き届かない特定費目にこの財源を振り向ける、あるいは、国民や市民の支持と理解を得るために、解りやすい特定費目にこの財源を振り向けるという衝動が強く働く場合が多い。例えば、教育、福祉、弱者救済、文化行政への支出等であり、おかしな考え方ではない。この考えを採用する場合には、特別会計を原則廃止するという過去の政策との調整を図る必要がある。(①、②は税として徴収する場合でも、同じ状況になり、一般会計の税収とするのか、特定目的使途の為の新たな特別会計を構築し、その税収とするのかという違いになる。税の場合に、特別会計を設けることは、上記の通り、国の現在の方針からは逸脱する)。
③ 法が定める特定の財団、公益法人等に、その使途を限定した上で、交付し、公益目的に支出させる:
現状の公営賭博で採用されている手法になる。徴収と配分のための公的な受け皿を構築し、所轄官庁が配分を采配するために、第二の予算と呼ばれたり、天下りや利権を認める構図になったりするため、古い考え方になる。果たして現代社会においてかかる考え方が国民の信任を得られるか否かには懸念も多い。必ず天下りや利権をもたらしかねないからである。
上記で見たとおり、如何なる手法を採用するかは、如何なる目的・使途を前提とするかによっても異なってくる。また、税であれ、納付金であれ、何らかの受け皿となる枠組みを指定するか、これを新たに構築する必要がある。但し、あまりにも複雑な考え方は、好ましく無いと共に、新たな官僚利権や天下りを認めかねない仕組みも、適切であるとは判断されない。透明性を貫徹しながら、できる限り単純な目的、単純な徴収の手法を前提にすることが好ましいともいえる。