法の目的が、その収益をもって公益目的に支弁するとして、賭博行為を新たに認める場合、何らかの手法により国が売上から生じる一定の資金を施行者から徴収することになる。もっとも制度としては多様な考え方が取れるわけで、例えば当初、国会議員の中には、①国が全ての収益を独占的に徴収すべきで、地方公共団体は施行に伴う不動産関連諸税、消費税、地域振興がもたらす経済効果を主たるメリットとして享受すべきという意見から、②本来公益目的といっても、地域振興や地域観光の発展も重要な法目的となることより、逆に国の取り分を少なくするか無くし、地方公共団体に厚く分配する仕組みを考えるべきという意見まで多様な考え方があった。あるいは中間的な考え方もあり、売上げに対する特別税は国が徴収し、入場料を地方公共団体の判断により顧客に対し、課税し、これを地方公共団体の取り分とすべしという意見もあった。この様に、複数の公的主体が同時に一定の賭博行為に関与する場合には、必ず収益をどう配分するかという政策的課題が生じてしまう。我が国の地方公営競技は、地方公共団体が担う収益事業であって、収益事業の主体は地方公共団体であり、この中から一部を特定の公益法人や特殊法人に交付あるいは納付するという仕組みを基本とした。国は対象になっていないわけで、これならば解りやすい(勿論中央競馬や、Totoは国が直接関与する仕組みで地方公共団体ではない)。
一方、現在考えられているカジノ法の考え方は、地方公共団体の発意とイニシアチブを前提としつつも、許諾を得た民間事業者を施行者とし、国と地方公共団体が認可と監視に関与するという前例の無い仕組みを前提としている。また、この場合、国と地方公共団体の双方がメリットの配分を受け、収益を配分することが基本になる。これ自体は、おかしな考えではあるまい。但し、どう配分しあうのか、国と地方公共団体は同等なのか、あるいはどちらかに重点を置いて配分すべきか否かという問題が生まれてしまう。例えば、かかる固定施設を前提とする遊興集客施設は、当該施設が設置されることになる地方公共団体に大きな経済的メリットをもたらすと共に、集客行為がもたらす交通混雑等地方公共団体や地域住民にとっての負担、関連する上下水道や周辺道路等のインフラ整備費等の負担、あるいは地域住民や地域社会内部に賭博依存症の兆候をもたらす負担等が生まれることも間違いない。負担に見合う、便益があることは、当然のことでもあり、カジノをホストする地方公共団体が充分なメリットを享受することは適切な考え方でもある。かかる論拠から、地域振興や地域観光の活性化が制度の目的であるならば、負担が大きくなる地方公共団体により厚く配分し、国の取り分を限定すべきとする主張が存在する。もっとも納付金は国と地方公共団体は、平等としてもその他の土地関連税収や事業税、消費税等でも地方公共団体はメリットを取得できるはずで、地域の取り分は全体としては、国よりも多くなるのだから、等分とすべきとする主張も根強い。
国と地方公共団体の間で如何に分担するかという問題と共に、そもそも法は、地方公共団体の在り方を国と同等に詳細にまで取り決める必要があるのかという議論もある。超党派議員連盟(2010~2012年)の議論の中で出てきた考えの一つで、法で定めるのは国の税率・納付金のみとし、地方公共団体の取り分は、国の取り分と同等となる値を上限とし、当該地方公共団体と選定される民間事業者との契約行為の中で、交渉により、任意に取り決めてはどうかとする考えになる。地域によっては、税・納付金ではなく、より大きな投資があり、より多い雇用を確保することこそが地域振興や観光開発に資すると考える地方公共団体もあれば、やはり税・納付金として特定目的の為に財源を確保したいという地方公共団体もあろう。これにより、地方公共団体は、公募に際し、如何なる方針を立て、企業を誘致し、選定するかの大きな裁量権を確保できることになる。税・納付金を高く設定すれば、民間としても、投資償却負担はあまり大きくとれず、どうしても投資額は少なめになる。逆に税・納付金を限りなく低く設定すれば、確実に民間事業者に多くの投資や雇用確保を期待することもできる。何を期待するか、如何なる施設とサービスを期待するかは、地域の選択に委ねてはどうかという考え方にも繋がる。
伝統的な制度の考えは、国が全てを定め、その定められた枠組みの中での行動でしかないというものでもあった。一方、あくまでも地域が主体となるIRの場合には、地方公共団体が如何なる政策、戦略、方針を取るかは、あくまでも施行を欲する地方公共団体の判断に委ねた方が、施設や施設の在り方に関し、地域色や地域の創意工夫を生かすことにも繋がる。地域のメリットをどう判断するかを地域の判断に委ねることは、諸外国にも事例があるが、単なる税収確保だけを目指すのではなく、あくまでもゲーミング・カジノやIRがもたらす肯定的な側面をどう取りこむかという視点から制度を構築することこそが、斬新な試みとなるかもしれない。この場合の国の取り分は、国際的な競争市場を見ても、あまり高く設定しない方が、やはり投資誘致効果は高くなる。尚、民間事業者にとっては、国の取り分、地方公共団体の取り分、あるいは免許料等の全ての公租公課が「税(納付金)負担」になるために、これらを加算した実効税率が、当該市場に適合的で許容可能なレベルに留まることが好ましいことになる。これらの考えをどう均衡できるかが、今後の制度設計で問われることになるのであろう。