カジノを規制する国の規制機関に関する考え方は我が国には類例が無いために、なじみにくい考え方になるかもしれない。公営賭博では、主務官庁が存在し、主務官庁が開催の許認可(開催日、開催条件)や、関連しうる公的団体を直接的・間接的に支配し、人事権や実質的な経営に対し一定の影響力を行使できる権限を保持し、これを行使することにより、公正な施行を提供できる仕組みとなっている。この業務は、主務官庁による認可行政として構成され、実質的な日常業務は限定されるため、既存の官僚機構にフィットする考えにもなる。但し、省庁による特殊法人や振興法人を経由した収益金の配分への関与を可能とする権限と利権が内在化した仕組みでもあり、巧妙に公的団体への天下りを可能にする仕組みでもあった。制度そのものが、公営を前提とし、パリ・ミュチュエル賭博である以上、内部に悪や不正は限りなく起こりにくく、安全な施行ができるという前提に立っている。不法行為等は制度で禁止しておくことにより十分であり、厳格な法の執行や監視は必ずしも必要ないという考え方がその根底にある。包括委託等に関与しうる民間主体に関する欠格要件等の規定はあるが、厳格に企業、株主、経営者の全ての適格性を検証するという内容ではないし、一切かかることはしていない。事実行為のみの委託である限り、やはり不正は限りなく起こり得ないという前提の制度であることが解る。この意味では、公営賭博の主務官庁は、確かに全般的な認可権限や包括的な管理権限を保持してはいるが、その実態は、許認可官庁としての業務にすぎず、カジノ・ゲーミングに関する規制機関の役割とは根本的に異なることをまず理解する必要がある。
カジノ・ゲーミングの特色は、胴元がリスクを取り顧客と対峙するバンキング・ゲームとなり、その担い手が公であるか民であるかを問わず、放置した場合には不正やいかさまが起こりうるリスクがかなり高いことにある。よって、規制機関の業務の特色とは、①単なる形式的な許認可業務ではなく、厳格な参入規制と参入者の適格性検証を実施し、業全体から不正や悪をもたらすリスクがある主体を排除し、廉潔性が確認された主体に対してのみ免許を交付し、かつその廉潔性の不断の維持を要求することにある。このために必要な実務的な免許認可の手順はかなり複雑になり、業務量も多くなる。かつ、②施行の在り方と特定区域における行動を常時、あらゆる観点から監視し、不正や悪から利用者を保護すること、法の執行機関と協力し、厳格な法の執行の体制をとることも主要な業務になる。③この為に必要な諸規則や技術標準等を策定し、かつ技術や市場慣行の変化に応じて、柔軟にこれを適合していくこと等規制機関の業務は優れて専門性の高い業務になるという特徴もある。この意味では、カジノの「規制機関」とは、例えば我が国の官庁のように一定の政策を企画立案する政策官庁ではなく、優れて専門的な細分化された業務を担う実務的な国の機関と位置付けた方がよいのかもしれない(詳細な規制を制定し、その遵守を要求し、この実践と行動を監視し、不正や違法行為を抑止する機能が主体となる。ゲーミング関連違法行為等に関しては規制機関の一部職員は特別司法警察官として逮捕権を保持することが想定されているが、この在り方は一般犯罪を扱う都道府県警察の機能とは若干異なる)。
この様な機能を保持するカジノ・ゲーミングの規制機関を我が国で創設するに際しては下記を考慮することが、必要であろう。
① 国としての統一的な機関の必要性:
ゲーミング・カジノの規制は、優れて専門性を必要とし、かつ国としての統一的な規則やルールを制定する必要上、(施行の単位が地域ごとになっても)地域毎に免許・認可や許諾の仕組みや詳細運営規則等を取り決めることは、極めて非合理的になる。国としての統一的な規制機関の創設を前提とすべきである。この場合、免許・認可等に関し、立法府や関連しうる行政府から、何らかの恣意的な圧力や影響力の行使を受けない、独立的、中立的な権能を保持しておくことが好ましい。利権が構成されたり、収益金の分配等で問題が生じたりすることを避けるためである。
② 政策官庁の機能と規制官庁の機能の分離:
観光振興や地域振興等の法が企図する政策目的は、政策官庁が主務共管官庁として担うべきであろう。但し、賭博収益の使途は法により明確に定めるべきで、政策官庁がその使途を恣意的に決める仕組みは好ましくない。かつ規制機関としての専門的業務は政策官庁ではなく、規制を担うために設けられる国の機関(規制官庁)が担うべきで、1)収益の使途を定め、これを分配する機能、2)法の政策目的を担う機能、3)詳細規定を定め、法の執行・監視を担う規制機関としての機能を、分けても良いのではないかと判断される。癒着や省利省益をもたらしうる伝統的な考えに拘泥するべきではない。
③ 規制機関と法の執行機関との分離:
規制を定め、監視を担う機関(規制機関)と法の執行を担う機関(公安・警察機構)との役割は原則峻別することが好ましい。権限を集中すると、汚職、腐敗、天下り等の悪を誘発しかねない側面が生まれるからでもあり、行司が相撲をとってしまう仕組みは、公平、公正な仕組みにはなりえないからである。
上記を考慮し、我が国においても、政策を司る省庁と国の規制機関の役割を峻別し、全体は複数の大臣・省庁の共管としつつ、規制機関は内閣府の外局として、立法府、行政府から独立した国の機関を設けることが好ましいと判断される。