国の規制機関とは、如何なる基本的な権能や所掌を保持すべきであろうか。如何なる業務が必要とされるのか、この業務を遂行するためには何を属性として保持していなければならないかという業務の内容、特殊性に着目することにより、如何なる組織が規制機関たりうるべきかが明らかになる。この場合、下記側面に着目する必要がある。
① 免許・認可・認証に係わる審査・調査等に関し、広範囲な行政権限が付与される:
実際のカジノ施設の運営に関わる詳細規則の制定及び技術標準等の制定は、規制機関が担うべき業務となる。これに基づき、関連する民間事業者・民間主体による免許・認可申請の審査・認証、第三者認証機関の認可、あるいは認可の停止・剥奪、認可に基づく運営行為に対する監視・監査・検査など、包括的な行政権限が国の監視機関に付与されることになる。単純な認可行政だけではなく、詳細規則制定と共に、実際に法や規則が順守されているか否か、認可の要件を常に満たしているか等を常に監視し、検証するという広範囲な業務を担うことが前提である。
② 国の機関としての中立性・独立性が要求される:
規制機関は、運営に関与する民間主体の生殺与奪権を保持しており、実質的にカジノ施設におけるあらゆる行為を認証・認可の対象とし、大きな行政権限を保持した主体になる。かかる事情により、その判断には中立性が求められ、立法府や行政府からの恣意的な影響力の行使を受けないことを担保する必要がある。政治的な判断や、行政府固有の事情で、制度や規制が歪められたり、腐敗、汚職、癒着等が生じたりする可能性を出来る限り排除することが必要となるからである。
③ 国の機関とその職員にも清廉潔癖性が要求される:
国の機関の職員や構成員は、公務員としての職務に加え、民間主体に課せられるのと類似的な徹底した清廉潔癖性が要求されることになる。癒着、腐敗、汚職の可能性を遮断するためでもあり、かつ一定の権限を保持した職員は、退職後一定の期間に亘り、保持していた権限に関係しうる民間主体への再就職、転職、移籍は禁止される。癒着の温床となりうるからである。
④ 専門的な知識や能力が必要とされる:
民間事業者や民間個人の欠格要件や適格性の審査・判断は、個人情報を詳細に調査・審査することを意味し、公安当局的な業務になる。かつ組織暴力団構成員の排除や、マネー・ロンダリング防止等カジノ施設の内外に巣食う可能性のある不適切な主体の関与を未然に防止する業務も類似的である。一方、カジノの運営に関する規制や監視に関しては、ゲームのルール、進行方法から始まり、採用される器具・機材・管理システム・監視システム等その判断には、かなり専門的・技術的な知識やスキルも要求される。規制や監視の詳細は、単純な役所の業務とは本質が大きく異なり、専門的、技術的な知識や能力を必要とする分野が多い。
⑤ 独自の組織・職員を保持し、国の機関として、様々な関連省庁との総合調整能力が必要とされる:
上記事情より、国の機関は、独自の職員を保持することが好ましいと共に、機関としての業務の遂行は、既存の行政府からの独立性と中立性を担保することが好ましく、常設的な行政委員会方式により行われることが理想的になる(勿論この場合の職員とは、公安・検察関連公務員の出向者や民間法曹界からの出向者等より構成されるのであろう)。また、職務上、多様な関連省庁との総合調整が必須となると考えられ、これに伴い必要となる総合調整能力と権能が担保されなければならない。
⑥ 施行の監視に規制機関として積極的に関与する:
伝統的な公営賭博の考え方は法による規範や規則は当然これらが順守されることを前提に、法の施行がなされるために、手間と費用をかけて精緻な監視を常時実施する事は一切していない。一方、カジノに関する規制の場合には、制度は悪用される、あるいは常に規制が守られるとは限らないという悲観的な立場に立ち、常時顧客や職員を第三者の目線から監視し、その健全性を担保するという手法が採用される。この為に、規制機関としてもカジノ施設内に事務所を設け、査察官を派遣し、常時データや映像をモニターしつつ、監視に積極的に関与することが実施される。
即ち、新たな規制機関とは、通常の認可行政の枠を遥かに超える業務内容と業務量を抱える国の組織となる。