超党派議員連盟のIR推進法案は、カジノの規制・監視を担う主体(カジノ管理委員会)を内閣府の外局に設置する国の機関と位置付けている(国家行政組織法第三条に基づく行政委員会を意味し、独立性、中立性の強い、権限のある国の機関になることを示唆している)。カジノの免許、規制及び監視を担う機関として独立した規制機関となるカジノ管理委員会を内閣府の外局として設けることは、かなりの重装備になり、果たしてそこまで本当に必要なのかという意見もある。また、行政改革が叫ばれている中で新たな国の機関を設けずとも、既存の国家公安委員会~都道府県警察の仕組みの中で十対応可能ではないかとする意見も根強い。但し、必要なのは、既存の行政機構の中でやりくりしながらどこかの省庁に包括的にやらせるという発想ではなく、施行の健全性と安全性を担保するために、何をどこまで規制し、かつ何が必要なのか、どのくらいの業務量が発生するかという認識と判断であろう。民による施行、官による厳格な管理を前提とする場合、どうしても規制の内容と規制機関の業務量はかなり、大きくなってしまう。想定される規制機関の役割期待と業務内容を理解することにより、その具体的な組織的有り方を検討することが本来考慮すべき道筋になる。
では、わが国の規制機関は如何なる実務を担うことになるのか。超党派議員連盟による会長私案に示されている想定される規制機関の役割と業務内容は概ね下記になる。
① 詳細規則の制定:
法は大きな枠組みを規定するのみで、現実にカジノ施設と施行者を律することになる規制の詳細は規則として後刻、規制機関が制定することになる。
② 施設、規制区域、運営内容と手法、安全管理体制、基本運営要綱等に関する技術標準の策定、履行と遵守の監視:
施設や運営手法・管理体制等につき、一定の技術標準を設け、遵守すべき最低の標準を設定することになり、その履行と遵守を監視することも業務に含まれる。
③ 施行者の適格要件の詳細等、免許手順や判断基準等の制定:
免許対象者に関する適格要件や、判断基準、手順等法規定をより詳細に展開した規範を制定する必要がある。
④ 施行者等関係者による免許申請(新規・更新)を受理し、その適格性を調査・審査し、免許の付与ないしは申請の却下:
免許申請受理と、背面調査、審査等の実務になり、業務の内容の範囲が広く、かつ不断の更新業務もあるため、恒常的に大きな業務量となる可能性が高い。
⑤ カジノの運営に直接的間接的に関与する個人に関する免許申請(新規・更新)を受理し、その適格要件を調査・審査し、免許の付与ないしは申請の却下:
上記と同様、作業量の大きな業務になり、申請者個人の背面調査を実施し、その適格性と廉潔性を徹底的に調査し、免許の可否を判断する業務になる。
⑥ 使用される機械、器具、用具、システム等の設置と使用に関する形式、規格、認証要件の制定、試験事務に関して指定機関の指定:
賭博行為に使用される機械、器具、用具、システム等は偽造や不正行為を防ぐため、一定の技術的な形式、規格、要件等を定める必要があり、この枠組みを定めることは規制機関の業務になる。形式認証や様々な認可等の実務は民間部門から指定機関を選定し、これに委ねることができる。
⑦ 運営行為の監視、またカジノ関連違法行為の摘発:
運営行為を常時監視し、適法な行為であることを担保すると共に、違法行為を摘発することも規制機関の主要な業務になる。
⑧ マネー・ロンダリング法制に伴う報告、情報とのとりまとめ、所管大臣への報告、関係省庁、利害関係者一般と必要な協議、調整:
公安当局と連携し、一義的な報告のとりまとめ等を担うと共に、専門的な観点から公安当局に連携し、捜査の一翼を担うことになる。
⑨ 内外の情報収集や犯罪抑止に関する手法の検討、諸外国の規制機関や行政機関との情報交換の実施:
テロや犯罪組織が国際的な活動をする時代において、諸外国の類似的な規制機関や行政機関との情報の交換や協力・連携関係を保持することは犯罪を抑止するためには必須の活動になりつつある。
上記の通り、規制機関が果たすべき役割は、単純な許認可行政ではなく、カジノ施行の全体を規制し、管理・監督・監視する包括的な業務になる。これら業務を遂行するためには専任の体制と組織が必要になると共に、幅広い専門知識や技術知識を具備した人材と体制を具備する必要がある。かつ、施行者の免許や様々な認可・認証等、優れて中立的な立場を要求される業務が多くなるため、立法府や行政府からの影響を受けない独立性と中立性を担保する機関であることが必須の要件になる。これら条件を満たす組織の在り方は、既存の行政組織ではなく、より独立性の強い、中立的な国の機関であることが好ましい。国家行政組織法第三条に基づく三条委員会が規制機関となるべき根拠がここにある。あらゆる先進国も、制度の実践に呼応する形で段階的にかかる規制機関を組織化し、一定の時間をかけて専門家集団となる規制機関を創出しており、わが国においても、慎重な手続きにより、段階的にかかる組織を構築していくことが好ましいと想定される。