カジノに係る規制機関(カジノ管理委員会)とは、カジノ賭博の詳細規則制定、許諾、認可、施行の監視を担う専門的な国の機関として位置づけられる。その実際の構成員は警察・公安関係者や、民間法曹会等の専門家が出向して構成されることになるのであろうが、その一部職員は査察官として現場に常駐し、かつ特別警察職員としての地位を得て、カジノの分野における逮捕特権を与えられることが想定されている。逮捕特権が無い限り、効果的な法の執行はできにくいとする判断になる。このカジノ管理委員会の実務的な役割は、①詳細規則の制定とその更新、②施行に関与する者に対する審査・免許・認証ないしはその拒否・剥奪、③施行の安全を担保するための監視・監査・検査の実施でもあり、④カジノを律する法律の範囲内において、特定の行為を規制し、監視し、違法行為を摘発することにある。極めて特殊な分野においてのみ、公安・警察的な役割を果たすことになるが、既存の公安当局とは一線を画す組織となることが想定されていることに留意が必要であろう。一方、公安当局は、一般犯罪に関する任を負うことになり、カジノに係る規制機関(カジノ管理委員会)と連携・協力することがその関係の基本になる。
より具体的にはカジノ管理委員会の在り方と公安当局の在り方は下記になる。
① カジノ管理委員会(規制機関)の在り方:
カジノ場内部の秩序維持や内部的なカジノ場監視の基本的義務は当然施行を担う民間施行者が担うべき業務となり、施行者によるかかる法的責任を明確にさえすれば、これだけで事足りるのではないかと考えがちだが、カジノの場合には、これでは不十分とするのが諸外国における常識になる。顧客を保護し、不正行為を抑止するためには、顧客の行動と共に施行に関与する民間施行者職員の行動をも監視することが規制機関の役割になる。全ての行為が監視されているという事実こそが、犯罪や違法行為の発生を未然に防ぐ最も効果的な手段になる。かかる事情により、規制機関は、施行者と運営に関する情報や監視データを共有することにより、内部的不正やいかさま、法の遵守を監視する役割をも担うことになる。また、定期的検査、定期・不定期監査等の様々な手段により、不正を防止し、犯罪を抑止し、違法行為を摘発したりする。
監視をより効果的に実施するために、規制機関の内部に査察官制度を設け、施行に関与する民間事業者の施設内部あるいはカジノ場に隣接した場所あるいはカジノ場内部に(施行者費用負担により)事務所スペースを設けさせ、必要に応じ、現場に滞在し、監視ビデオへのアクセスや、営業管理・顧客・売上げデータ等の内部資料へのアクセスをも認めさせることが考えられる。米国等に規制当局機関の職員が常駐しているのは、専ら、税収の確認、課税に至るまでのプロセスで不正やいかさまが無いかを常時監視する必要性があるという理由による。その他の国では、公安当局との密接な連携・協力を実践するために、現場に近い所に、査察官を配置し、場内を監視すると共に、事業者の内部の運営の在り方をも監視することが実践されている。実際のゲーム活動に関する顧客監視行為は民間の施行者に委ねつつ、施行者を含めた全体の運営行為を監視し、犯罪や違法行為を抑止し、摘発することが、規制機関が施行現場に常駐する目的でもあろう。
② 公安当局の在り方:
では、公安当局は如何なる側面で関与することになるのであろうか。広域暴力団対策や、地域社会における公共安全や一般的な秩序維持、あるいはマネー・ロンダリング対策等は公安当局の専権的な管轄事項になる。広域暴力団ややくざ等の類が直接的、間接的に何らかの形でカジノへと介在することは社会秩序維持の観点からも絶対防止すべき要件になり、カジノの監督を担う規制機関と連携・協力しながら、その対策にあたる。マネー・ロンダリング等に関しては、銀行と同様にカジノの運営を担う民間施行者は擬似金融事業者と見なされ、別の法律上の枠組みにより、民間施行者とマネー・ロンダリング対応の為の警察庁当該部局との特定の報告・監視体制が別途存在する。この場合、規制機関と既存のマネー・ロンダリング対応警察当局との間で、情報のやり取りを含めた連携・協力が必要となる。
公安当局(国家公安委員会、警察庁、警視庁・道府県警察)と規制機関(カジノ管理委員会)は、基本的には連携・協力関係を維持し、カジノ場内外の安全性と健全性を保持することが共同の目的ともなる。犯罪が生じた場合、あるいは犯罪が露見し、これを摘発する場合には、その内容次第では、規制機関は公安当局(地方警察)と連携・協力することが全ての前提となろう。