国の規制機関(カジノ管理委員会)の役割とは、カジノの運営に係わる詳細規則を制定したり、不正や悪を防止するための規制や監視業務を統一的に行ったりすることにある。一方、地方公共団体の役割とは、区域を設定し、地域振興・観光振興を企図する民による複合観光施設群の開発と実現を期する枠組みを設け、事業者を誘致し、当該区域において開発投資とIRの実現を期すると共に、地域内における良好な公序良俗・地域環境を保持し、地域社会における社会的危害の抑止と地域住民対策等を担うことにある。また、国は、施行の安全性と健全性を担保するために、カジノの運営の監視にも深く関与することになる。この場合、国と地方公共団体の役割を明確に峻別し、機能や役割が重複しない形で補完性を維持することが効果的かつ、安定的な制度の仕組みを構築することに繋がる。国が担う規制と監視の枠組みの目的とは、①賭博施行が、安全、健全かつ公正に行われ、利用者が安心して、この遊興を楽しめるように、詳細運営規制を定め、その遵守を担保すること(この為に賭博行為を監視し、不正、いかさま等の発生を抑止し、秩序を維持すること)、②リスクのある主体を賭博施行やその施行に関与させない、また一切、参入させないこと(この為に免許・認証・認可等の制度を設け、その厳格な実践を図ること)、③賭博施行に係わる行為を規制し、また監視することにより、犯罪や不法行為を抑止し、その健全性を担保すること等にある。
具体の規制の手段としては、施行行為を多段階的に捉え、個別の段階毎にそのあり方の全体を規制する考え方を取る。これは下記に分類できる。
①参入規制:
この業に直接的、あるいは間接的に参入するあらゆる個人・法人を対象とし、厳格な欠格要件と適格性要件を設定し、参入規制をかけることを意味する。不適切な主体、好ましくない主体、潜在的にリスクをもたらしうる主体を排除することを目的としたものである。業への参入を規制機関による免許、認証、認可の対象とするわけで、単純な外形要件・形式要件のみではなく、過去にさかのぼり犯罪歴の有無や、リスクをもたらしうる可能性を審査することになり、これら全てが厳格な精査の対象になることが通例である。運営の健全性とは、不適切な主体を如何に排除できるかにより実現する。
②(否定的)行為規制:
禁止する行為を列挙し、規定する規制の在り方になる。実際のゲームの運営と施行、組織経営、業務手順等にまたがり、施行に伴う全ての側面に係わり、適切ではない行為を定義し、これを行うことを禁止することになる。例えば、対一般顧客与信付与禁止、カジノ場内ATM設置禁止等になる。
③(肯定的)行為規制:
上記とは逆に、遵守すべき行為を義務として規定する規制の在り方になる。例えば、使用する機材・器具等に関する技術標準や標準仕様規定、あるいは施行者による定期報告、緊急時連絡義務、マネー・ロンダリングに関する高額取引者、疑わしい取引等諸報告提出義務や、規制機関等に対する協力義務、運営情報・経営情報提出義務、業務手順書遵守義務等になり、積極的に遵守すべき義務を規定する。
④監視規制:
施行者及びその構成員の行為、行動、及び顧客の賭け行動を何らかの手法により規制し、監視する規制の在り方になる。規制を設けるだけではなく、その規制が確実に遵守されていることを監視することにより確認し、不法行為を抑止することを意味する。例えば、オンラインによる施行のデータ監視、民間事業者の監視・警備チームとの連携協力によるカジノ制限区域の24時間ビデオ監視、事業者内部の金銭取引や手順等の遵守チェック、売上データ等の確認・認証等になる。現場において、施行者・顧客を含む行為・行動を規制機関の職員(監査官)が直接的に監視、モニターすることもその一部になる。
⑤結果規制:
会計・納税上の不正や不適切な行為、あるいは様々な運営行為に関し、適切な行動がなされていたか否かを事後的に検査・監査することにより、施行者を規制する考え方になる。これは定期・不定期事業監査や臨時検査等により実施され、公認会計士が担う会計監査とは別に、あらゆる角度から施行の在り方を事後的に精査する(あくまでも事後検査、監査であり、過去の行動に不法行為や違反行為が無かったかどうか、納税は適切か、報告はきちんとなされているか否か等を審査する。違法行為が露見した場合には、厳罰となりうる可能性もある)。
わが国においても、上記の基本的な考え方は同一であろう。尚、何を何処まで法律で規定し、それ以外を下位の政令や規則で定めることが適切かに関しては、慎重な検討が必要である。少なくとも個人の人権や権利の制限になる部分に関しては、判断基準も含めて、法にその明細を規定することが適切となる。この意味では、カジノを律する法令とは、他の既存の公営賭博法と比較すると、規制に関する側面は、かなりその内容が詳細になる。規制の対象範囲がかなり広く、かつその深さが深いためでもある。