ではカジノの施行に参入することを欲する法人・個人は如何なる手法・内容で規制機関に申請し、またどのようにして審査がなされ、免許が付与されるのであろうか。諸外国における基本的なアプローチは下記になる。わが国でも原則この基本的考え方を踏襲すべきと判断される。
① 申告・申請内容立証義務:
欠格要件、適格性の判断基準を法定し、この判断基準に基づき、カジノの業に参入することを欲する個人・法人に対しては、自らの適格性を自らが立証する義務を課すことが基本となるべきであろう。このために、申請者は免許申請に際し、規制機関が求める書式に基づき詳細な自己申告が要件となる。規制機関はこの内容を審査し、当該個人・法人による申請書類の記載事項が適切か否か、虚偽の記載は無いか、記載のもれや問題になるところはないか等を審査し、検証することになる。この意味では、規制機関自身が、上記範囲を逸脱して、特定個人を審査、調査するということではない。但し、我が国も米国ないしは、諸外国における実践の在り方をある程度踏襲することが適切になると想定され、申請書類の記載項目は、過去にさかのぼり当該申請主体及び家族に関するかなりの個人情報に跨ることになる。虚偽の記載をした場合、あるいは意図的な事実の改ざんや情報の非開示があった場合には、いずれも認証の拒否に繋がることになる。申告書式は形式的なものにならず、かなり詳細なものにならざるを得ない。
② 背面調査と審査業務:
上記申告立証義務を如何なる範囲、如何なる程度まで詳述することが義務となるかは、立法政策上の選択肢になる。かつ、我が国の商慣行や許認可行政の過去の実例等よりして、公共の秩序と施行の健全性を担保するために、どこまで深く調査すべきか、またこれが適切か、可能かとする判断もあろう。諸外国では過去の全ての職務経験、過去一定期間にさかのぼる土地・株式・債券等の資産保有状況、銀行預金勘定、犯罪行為や当局による摘発行為の有無等の個人情報が全て申告の対象になり、その適格性・正確性を規制機関が背面調査し、確認することになる。かつ、個人の場合、審査・調査の対象はその家族迄及ぶ。尚、申請主体が諸外国にて類似的な業に関する許諾ないしは認可を取得している場合には、申請者による明示的な許諾により、諸外国の規制機関より申請と認可に関する情報を取得できるようにすることが審査の迅速さに繋がる。全ての国で同一ということではないが、厳格な規制を取っている国で認可を得た主体は、相応の厳格なプロセスを経て認可を取得できたものと合理的に想定することができるからである(勿論制度的に甘い国の免許等は考慮に値しない)。
③ 個人情報保護法との関係:
上記申告義務の前提として、規制当局が申請行為の適格性と正確性を確認するために、銀行等第三者が保持する当該申請主体の個人情報(企業の場合には秘匿すべき情報となろう)を規制機関が背面調査することを明示的に許諾することが申請者に求められる。これに基づき規制当局は金融機関を含めた第三者が保持する個人の情報にアクセスし、申請行為の適格性を審査することができる。法律上の行為である場合、個人情報保護の適用外であり、行政当局が個人情報にアクセスすることは当然認められ、この旨法律上の根拠が規定されることになるが、問題を縮小化するために予め申請者の同意を取得しおく手順を取ることが賢明であろう。
④ 費用負担の在り方:
申請、審査、許諾に関する全ての費用は申請者の負担になる。規制当局は申請及び許諾に関し、一定の料金を定め、これを徴収することができると共に、申請者の適格性を審査し、検証するために必要な全ての費用(人件費を含む)を追加的に徴収することが通例となる。返還不能の一定金額を申請に際し、預託させ、これを費用に充当すると共に、審査の内容次第で費用がこれを超える場合には、実費を更に要求するという仕組みが諸外国ではとられている(未払いの場合には申請は却下される)。海外規制機関との情報交換や、外国における政府に近い第三者外部審査支援アドバイザーの起用、規制機関職員が出張し、海外において直接調査するなど、場合によってはかなりの費用負担が求められることが多い。審査に伴う費用負担の在り方は、我が国においても類似的な考えが採用されうる。
わが国の場合、申告と背面調査・審査の範囲をどのレベルに設定するかは、大きな議論の対象になる。国際基準に準拠するとなると最低IAGR(国際ゲーミング規制者協会)による共通申告書式は満たすべき要件ということになるが、これでもかなり詳細に亘るため、わが国の慣行として何をどこまでを許容範囲とすべきかに関しては今後の議論となるのであろう。