顧客に対する規制は、1)カジノに来訪する顧客を対象とし、直接的に顧客の行動を規制する手法と、2)ゲームを提供する施行者を規制することで、結果的に顧客の行動や行為を規制する手法という二つの規制手法に分類できる。顧客を規制する政策上の目的とは、いうまでもなく、不正、いかさま等の不法行為から顧客を保護すると共に、一般顧客が過度な賭博行為へ傾斜することを抑止することにある。一方、施行者を規制することは、賭博サービスの供給の量と質自体を規制し、管理することを意味する。手法としては施行者を対象に、供給をコントロールすることが効果的でもあり、施行者をして、ゲームの提供のあり方や、顧客の行動を規制することにより、間接的に顧客を規制するという手法が殆どになる。この意味では、顧客に対する規制項目は限りなく限定され、顧客はこれら規制の存在を感じることは殆どない。
主要な規制項目には下記の如きものがある。この基本的な考え方は諸外国でもほぼ同一であり、我が国でも類似的な規制が課せられることになると想定される。
① 対顧客直接規制:
不適格ないしは欠格となる顧客をカジノ施設から排除したり、特定の行為を担う顧客の本人確認をしたりする規制になる。
i. 欠格者、不適切者等入場規制:
ゲームに参加できない者の欠格要件を法定することにより、未成年や、暴力団関係者、あるいは場内秩序を乱しうる主体等のカジノ場への入場を禁止する規制になる。また施行や監視に関与している職員、公務員、国の機関の構成員等もゲームへの参加は禁止となる。例え場内に入場できても、風紀や秩序を乱しうると判断された者は、カジノ場から強制的に排除される。
ii. 賭博依存症患者等関連規制:
自己排除プログラムにより、本人ないしは家族の申請に基づき、申請の対象になった者がカジノ施設へ入場することを施行者が禁止し、排除する規制になる。規制の対象とはなるが、任意性の強いプログラムになる。またカジノ・ハウスにより、賭博依存症の傾向があると判断された顧客は、義務規定とはならないが、施設からの退去勧告を受けることがある。
iii. マネー・ロンダリング等に関する本人確認規制等:
一定金額以上の高額取引者や、金額に拘わらず疑わしい取引行為の場合には、マネー・ロンダリング法制に基づき、顧客の本人確認が要請されることになる。
② 施行者を規制することによる顧客行動・行為の間接的規制:
賭博依存症患者対策を除き、総需要を管理したり、射幸心を煽るとして過度に反応し、規制を厳格にしたりすることは、カジノの経済効果を期待する政策とは矛盾してしまう。過度に厳格化することなく、適切なバランスをもって柔軟性のある考え方をとることが適切となる。施行者を規制するには様々な手法があるが、例えば下記の如きものがある。
i. 賭博総供給量規制:
カジノ施設の設置総数を制限したり、設置のあり方、規模(床面積)や設置されるテーブルや機材の総数・ないしは比率を規定したり、営業時間を規制したりする、あるいはカジノ場への入場に際し、入場料を課すことなどにより、顧客によるアクセスを直接制限したり、顧客による賭博消費を規制し、抑止する施策をいい、供給を削減することにより、総需要をある程度縮減することが可能になる。勿論かかる施策は施行収益や関連税収にもマイナスの要素が働くことになる。
ii. 顧客の射幸心を極端に煽る行為の規制:
射幸心を極端に煽るゲームの内容やゲームのルール、ゲームの賭け方、機材やシステムの在り方等を規制したりする考え方になる。このほか、賭け金額の単価上限を規制したり、損失上限額を設定したりする等、顧客の賭け金行動を直接規制したり、間接的に顧客の行動に影響を与える施策も存在する。ゲームの提供の在り方に規制をかけ、結果的に顧客の行動を規制するという考え方になる。あるいはカジノ場内の無窓空間に時計を設置することで顧客の注意を喚起したり、過度の賭博行為の危険性に対し、顧客に見える形で告示をしたり、賭博行為の確率等についても顧客に周知徹底を図る等も規制の要素として実施されることがある。
iii. 賭博依存症患者等関連規制:
依存症患者に対する様々な対応措置を施行者に求める規制となる。例えば賭けに溺れる顧客やのめりこむリスクが表出している顧客に対し、賭け金行動をしないように説得し、退去勧告すること、従業員教育を徹底し、賭博依存症患者を特定し、これを排除しつつ、適切なケアを施すこと等も、賭博消費を抑制する効果をもたらすことになる。その他依存症患者に対する24時間ヘルプデスク等直接的なカウンセリングをすることなども施行者の義務として規制の対象となることがある。