賭博行為がもたらす社会的危害(Social Harm)とは、賭博行為を営むことが社会にとりデメリットをもたらしてしまう事象を生んでしまうことをいう。賭博行為が社会にもたらしうる危害とは、個人、家庭、職場、社会にも波及的な影響を及ぼしかねない賭博依存症問題であり、社会的危害縮小化施策とは、これを抑止し、危害を縮小化するための様々な制度的施策を意味する。賭博行為は本来成人の自己責任の下で為される遊興でもあり、賭博依存症とは自分を管理できず、個人の内面的、精神的な問題から生じる病理症状になる。単純に制度として管理できるリスクではなく、管理ができにくいリスク類型であるともいえる。問題を解決できる単一の解はなく、様々な施策の組み合わせにより問題が生じない制度的措置を志向し、問題が生じた場合には、積極的な救済の手法を実践することが諸外国での通例となっている。
先進諸外国における最新のカジノ法制は、いずれもこの問題を真正面から捉えたものとなっている。公営賭博法制や遊技でも類似的な問題が存在するが、所轄官庁が縦割りになっており、共通の事象には対応できにくいこと、問題を認知してしまうと責任問題になると共に、このための特段の財源や組織・体制もないこと等から、現存するこの問題を無視し、あたかも問題が存在しないような考えがとられている。かかる考えを是正し、我が国の法制においても、当然前向きに制度的措置を考えることが前提となるべきであろう。
これには下記考え方がある。
① 国が取るべき措置:
✓ 公営賭博や遊技等類似的な業に跨る依存症患者に関する実態把握、定期的・継続的統計調査を行い、まず実態を明らかにする。新たに導入されるカジノ賭博がもたらす影響も踏まえて、国としての対応基本戦略と行動指針を策定する。
✓ 依存症問題に関する調査研究や問題解決に従事している民間ボランテイア・NPO等の支援育成、関連する学術団体等への支援、専門家・治療機関等の育成支援を行う。問題を認知し、解決を担う社会層を育成し、この動きを広げる施策が必要となる。
✓ 上記活動に必要となる財源として、粗収益に対する課税ないしは納付金の一部、あるいは入場料の一部を充当する等の考え方が想定できると共に、これらとは別に一定率の依存症患者対応交付金を施行者の総収益に課し、国に特別勘定を設け、上記活動に対する財政的補助の原資とする等という選択肢もありうる。補助金の配分に関しては、慎重な判断が必要となる。特定の省庁の裁量に委ねず、独立的な第三者委員会が透明な手法で決めることが肝要であろう。また、カジノ外の賭博や遊技等も、依存症患者対策という意味では、共通の問題を抱えている以上、これら業界にも応分の負担を求め、明確な国の施策として、必要な措置を図る必要がある。
✓ 賭博行為を国として認める以上、必然的に生まれてしまう社会的弱者に対する何らかのセフテイー・ネットを国として設けることが必要である。民間施行者や地方公共団体に任せ、問題を糊塗することなく、国としての明確な制度的対応措置を講じるべきであろう。
② 地方公共団体が取るべき施策:
✓ 依存症患者問題は、施設が立地する地域社会や地域住民に関して、特に先鋭的な問題となりやすい性向がある。施行者と連携・協力し、その対応と依存症患者のケアを図ると共に、地域社会の問題として、積極的な抑止、影響縮小化のための施策を実践する必要がある。
✓ 上記を達成するために、地方公共団体が施行から得られる納付金や入場料収入等の一部を財源として用いることなども考えられる。
③ 施行者が取るべき措置:
✓ 依存症患者対応施策を自ら考え、国(規制機関)に提案し、国がこれを認めることで、その実施を図ることを施行者の義務とする考えもある(依存症患者を特定し、中止を勧告する義務、顧客保護の為の従業員教育実施義務などで、施行者自らが問題を縮小化する意思と行動を取ることを義務付ける考え方になる)。
✓ リスクある主体に過度の賭博行為を勧奨することを禁止し、必要な場合退去勧告や強制排除等を実施する義務。また、一般顧客に対する賭博リスクの周知徹底・教育普及活動を行い、入口でかかる依存症患者が生まれる状況を断つあらゆる行動が求められる。
✓ 依存症患者とし、特定された主体に対するカウンセリングとケアを義務付ける。例えば自己排除プログラムを策定し、これを実践する義務。対顧客依存症無料カウンセリングや電話によるヘルプデスクの設置、施行者による費用負担により依存症治療機関へかかる特定顧客を送り込むと共に、かかる機関への支援、また連携・協力義務等である。
即ち考えるべき基本とは、①社会統計調査を実施し、実態を把握し、中長期的な対応戦略を考え、行動する、②あらゆる予防措置を講じる ③それでも生じる事態にはセフテイー・ネットを設ける(対象者を特定化し、やらせない、入れさせない。24時間ヘルプデスク、個別カウンセリング、依存症対応治療の無償提供等)、③これらに必要となる財源手当てを図るなどになる。