社会的危害縮小化施策の実践に、国が如何なる形で関与するかは大きな検討課題になる。カジノだけを取ってみる場合、民間事業者の自主努力に委ねる、施行をホストする地域社会(地方公共団体)に委ねる等の消極的施策もありうるが、適切な考え方といえるか否かに関しては大きな懸念が残る。既に公営賭博等に関しても同じ問題が存在する以上、国としての問題に対処する包括的な取り組みと対策が必要であろう。またこれを制度の中で明確に位置づけ、国としての対応及び施策を明らかにすることも必要となる。
この為にはまず、国が率先して取り組み体制を構築する必要があり、専任の主務省庁、専任の国の機関が必要である。先進諸外国では、賭博依存症に伴う精神疾患は、国民が健全なる健康状態を保持するために対処すべき事象として捉えることが通例でもあり、この場合、厚生労働省が主務省庁として問題に対処することが本来の筋になる。もっとも伝統的な公営賭博や遊技がもたらす類似的事象をも対象範囲とする場合、複数の省庁との連携・協力が全ての前提になってしまう。この場合、厚生労働省が実務に深く関与することを前提に、上位の官庁でもある内閣府で取り上げざるを得ないことも想定されるが、如何なる形でこれが実現できるかは組織上の工夫も必要であろう(薬物依存症への対応は、やはり複数省庁が政策的に関与する為、内閣府で取り上げている)。実際のステークホルダーに近いという意味では規制機関たるカジノ管理委員会の中に、依存症対策小委員会等を設け、対応することも不可能ではないと想定されるが、業務の内容から判断すべきでもあり、その適否に関しては、慎重な検討が必要である。
この場合、実質的には主務省庁(上記の考えならば内閣府となる)の下に国の機関を設置し、ここに専門家を結集し、問題を整理・把握し、中長期的な対策を考慮し、これを具体のプログラムに落として、予算を配布して、第三者にかかるプログラムを実践せしめ、その成果をモニタリングすることが主たる業務の内容になる。即ち、下記となろう。
① 実体を把握するための定期的社会調査の実施。
② 国としての中長期対応施策の策定(現実を見据えて、中長期的に如何なる対応を取るかの施策検討)。
③ 短期的プログラムの策定と実践手法の検討(上記をより短期的なプログラムに細分化し、具体の対応戦略と実践手法を検討)。
④ 財源の確保と必要となるプログラムに対し財源の配分(実際のプログラムは国の機関ではなく、様々な主体、NPO、専門医療機関、教育機関、民間団体等が担う事が想定され、財源確保と財源の配布は重要な政策実践のツールになる)。
⑤ 利害関係者との連携と協力(様々な利害関係者との協力・連携も必要で、具体のプログラムを実践しながら、効果を評価したり、より効果的な問題解決の手法等をも試みたりすることができる)。
⑥ 専門家となる人材の育成、育成支援、キャパビル、カウンセラー認定制度の創出支援や、学術研究調査支援等、問題に対処できる専門家の層を厚くすることが、中長期的な問題の解決にも繋がる。
公営賭博や遊技を含めると日本は今やギャンブル大国でもあり、既にこれら分野において依存症の問題が健在化しているという事実がある。よって、新たなカジノ賭博を導入し、依存症患者が更に増えることになることは好ましくないという主張があるが、必要なのは、既存の公営賭博や遊技から生じる問題を含めて、放置し、何もしないという現状の姿勢を改めることでもあろう。人口比で必ず生じる賭博依存症は世界保健機構(WHO)の規定では精神疾患であり、この中でも自己をコントロールできなくなり、社会的危害を与えうる主体は極めて少数でしかない。かかる事象はあらゆる社会において避けられないが、本来やるべきは、国主導で、しっかりとしたプログラムや施策をとることにより、①これらを適切に抑止、防止したり、②社会的危害をもたらしたりすることを縮小化することにある。先進諸外国ではかかる考えが実践され、一定の成功を納めている。わが国においても、既存の公営賭博がもたらす社会問題も含め、放置するのではなく、明確にこれを否定的事象として捉え、国が積極的な対応策を取ることが、適切な考え方といえる。