法律上、未成年者や多重債務者、成年被後見人、破産者、自ら申告した賭博依存症患者、生活保護者、あるいは組織暴力団員ないしは過去暴力団員であった者等特定化される主体は欠格者として定義され、カジノ場に立ち入ることも、かつこの中においてゲームに参加することもできない。ではこれら欠格者は効果的に排除できるのであろうか。あるいはどうすれば排除できるのであろうか。もっとも類似的に欠格要件が定義されているその他の制度においても如何なる手法を採用すれば効果的に欠格者を特定化し、排除できるかに関しては触れていない。法は欠格要件を定め、罰則の対象となる主体と罰則の内容を規定するが、この規定がどう執行されるのか、あるいは執行されないのかに関してはサイレントということになる。ややこしいのは、欠格とされた者の理由には様々なものがあり、必ずしも同質ではないという事情にある。例えば、未成年者は入れさせるべきではないし、入れてはいけないという範疇になるが、多重債務者や個人的破産者、あるいは賭博依存症患者、生活保護者等はその本人の問題として入るべきではないし、遊ぶことも好ましくないという範疇になる。一方、組織暴力団員ないしは過去暴力団員であった者等は、その存在自体が、カジノ場の雰囲気を壊し、公序良俗を乱す可能性が高いという意味で、断固排除すべき分類になる。各々異なった背景があることになる。
また、罰則の考えや手法も本来的には異なる。例えば、未成年者、多重債務者、成年被後見人や破産者等は、風営適化法における未成年者入場の際の罰則と同様に、その入場を認めた施行者に対し罰金刑を課すという考え方が取られることになるが、暴力団員等の場合には、その暴力団員自身に罰則を課さなければ、全く意味が無くなってしまう(露見しても、自らが罪にならないとすれば、全く意味が無い法規定になる)。一方、欠格要件をチェックする手法も考えも同一にはならない。未成年者の場合には、姿恰好はもとより、何らかの公的書類により成年月日を確認する等、入場者全員の本人確認を実施すれば、完璧な排除が可能になる。ところが、多重債務者、成年被後見人や破産者、生活保護者あるいは暴力団員等も、施行者自らの能力・情報・手法をもってしては、単純な形で顧客の欠格性を確認することができないというのが過半の例になるのではとも想定されている。
では効果的な入場規制の方法はあるのだろうか。下記等が考えられる。
① 未成年者:
未成年者の場合には、比較的単純な方法で事足りる。入場に際し、免許証、パスポ-ト等の顔写真入りの公的書類により本人確認をする方法である。勿論、年齢が低いと判断される顧客に対してのみ、本人確認をするという手法もあるが、客観的な手段とはいえず、より効果的なのは、明確な証拠に基づく入場者に対する全数確認になる。例え、顧客に拒否反応が出ても、未成年者の入場は確実に排除することができる。米国やマカオの様に、入場ポストに監視員は配置するが、全数チェックをしない場合には、未成年者が入場してしまうというリスクを根絶することはできない。
② その他の欠格者:
その他の欠格者の場合には、各々の欠格要件の判断基準や必要な情報に施行者が必ずしも簡単にアクセスできるような状況ではないことが最大の難関になる。入場後に本人の行動により、問題が露見するということもありえよう。但し、この場合は、うまくすり抜けて入場していることになり、問題の解決にはならない。一つの効果的手法として考えられるのは、手間も金もかかるが、入場に際し、外国人旅客を含めた全ての顧客に免許証ないしはパスポート等の公的な本人確認の為の書類提出を求め、その場で、(仮)入場顧客カードを作り、発行し、顧客の賭け金行動(例えばキャッシャーケージ、テーブルにおけるチップ・現金交換、機械等における現金投入)は全てこのカードをかざさない限り、賭け金行動ができないシステム構成にすることであろう。本人確認情報を取得し、カードを作成する時点で、これら情報を電子的に国の規制機関経由、警視庁、多重者債務情報を保持する民間団体、破産者情報を保持する主体等に流し、欠格要件の有無を問うという手順になる。もし、全ての情報が電子化され、電子的な処理でチェックができるとすれば(暴力団員も含めて)カードを発行する前にブロックすることができる。あるいは、カードを発行し、入場した後であっても、欠格要件が判明した段階で電子的にカードを無効にしてしまえば、顧客はその時点より、カードを使えず、賭け金行動ができなくなる。勿論このカードは、顧客のプロモーションやコンプないしは一種のプリペイド・カードとして、顧客にとっての利便性や、有用性を増すことも可能であろう。ポイントは、顧客にとり負担の無い形で本人確認を実施し、電子的手段により、できうる限り早く、欠格情報を保持する主体からの確認を取り付け、判断基準とするという点にある。この場合、あらゆる主体をその理由を開示せず、何時でも排除することが可能になる。手順に時間がかかる場合は、一回限りの仮カ-ドから、何らかの動機付けをつけて本カードに移行させ、その過程でチェックするということになろう。もし、かかるICカードにより顧客の賭け金行動を捕捉することができうれば、賭博依存症患者等を特定したり、不審な賭け金行動を特定化したりすることもできるという派生的な効果も期待することができる。
尚、カナダのオタワのレーシーノ(Rideau Carlson Raceway Slots Center)では、15,000人に達する依存症患者を特定し、排除するためにリストと職員による目視に頼っていたが、画像認識システムの導入により、入口における効果的な対象者の排除に成功している。わが国の技術をもってすれば、公安当局が保持する好ましくない主体の顔写真リストをクラウドを利用して、カジノ場の画像認識システムとオンラインでリンクできうれば、これら人物は効果的にかつ確実に排除することも可能となろう。