規制機関の本来の目的と役割は、健全かつ安全、公平なゲーム賭博を国民に提供する仕組みを維持することであり、民間施行主体の経営を不用意に監視したり、その自由な活動を意図的、恣意的に抑制したりすることではない。あくまでもゲーミングという行為のみに対象を絞り、ゲームにかかわるあらゆる行為・活動に不正や悪・組織悪が一切介在できないようにするために規制がある。その対象は、施行者によるあらゆる関連した行動となり、その他の産業には見られない厳格な手順・考えを規制として取り決める。放置した場合、不正を引き起こしたり、あるいは悪や組織悪を惹き付けたりする可能性が高いという理由による。これを確実にするために、規制機関は運営を担う施行者が定める業務手順に着目し、不正や悪が介在する余地が完璧に潰されているか否かの詳細を審査・検証・認証する。かつ施行者が第三者と締結する一定金額以上のモノやサービスの供給に関する契約も、全てその内容を審査し、認可する、あるいはコメントを付し、再考を促すという手順を取ることが諸外国では通例となる。この意味ではカジノの経営・運営は規制機関に対してはガラス張りになることが前提である。
実際の規制の在り方は、一定の運営基準の基本的な考え方を規制機関(カジノ管理委員会)が定め、これに基づき民間施行者が運営実施要綱などを作成、カジノ管理委員会に提出し、その認証を受けることになる。この対象になるのは、かなり広範囲な実務手順となり、下記の如きものが想定されている。
① 業務遂行要綱
② 安全管理要綱
③ 金銭等取り扱い手順書(チップ取り扱い手順書を含む)
④ ゲーム運営手順要綱
⑤ 機械・器具等取り扱い手順要綱
⑥ 警備・監視手順要綱
⑦ 会計・財務手順書
⑧ 犯罪による収益の移転防止に関連した報告等に関する手順書
⑨ 事故・災害時における対応・退避手順書
⑩ 職員法律順守教育手順書、職員職務規定書
⑪ 賭博異存症患者特定化・対処に関する業務手順書・職員教育手順書
等になる。
実際の業務手順書に着目するのは、これが職員の行動規範となるからでもあり、この手順規定が甘い場合には、そこに不正が関与するリスクが高まるからでもある(ゲームの進行は、必然的にお金のやり取りやお金の代替物であるチップのやり取りを伴い、これがカジノ場内のあらゆる場所で行われる。お金の流れがある所は、不正が起こりやすいことから、この取り扱い手続きに着目することになる。基本的なアプローチは現金・チップ等の移動等に関しては、書面上のやり取りを基本にし~ペーパー・トレイルといい、必ず書面で証拠を残す~、できる限り人を介在させない手法を考えたりする。また人が金銭に介在する場合には複数人で対応する等の配慮も実践される。この意味では規制機関は提示される手順書案の内容を評価し、必要な場合、意見し、かつその内容の変更を求めることができる。またこれら手順書等の更改はすべてカジノ管理委員会に対する届出ないしは同委員会による認証の対象となる。同様に、一定金額以上の契約を施行者が第三者と締結する場合には、予めカジノ管理委員会に届ける必要があると共に、必要があるとカジノ管理委員会が判断した場合には、当該契約は認証の対象になると共に、その内容に意見をすることもできる。第三者と施行者が契約を締結する場合、モノやサービスの提供という意味で施行者と関係を持ち、かつ施行者の担う業務を一部代替する可能性もあるため、そこに悪や不正が入り込むすきができてしまうリスクがある。よって如何なる権利義務関係にあるか、リスクが介在する余地があるかの詳細を検証することになる。
規制の対象・範囲・深さ、即ち何をどこまで、どのようにするかにより、カジノの実際の経営や運営の在り方は大きく異なってくる。一方、規制の内容が過剰になったり、規制当局による恣意性の強い内容になったりした場合には、施行を担う主体を萎縮させ、市場自体を縮小させかねない。これでは政策目的として期待した効果を得られなくなるということもあり、如何に全体としてバランスの取れた規制とし、その実践をするかがポイントとなろう。