カジノ立法化が進捗し、その実現が近づくにつれ、遊技(パチンコ)の位置づけはどうなるのかという疑念が提起されることが多い。パチンコ・パチスロとスロット・マシーンは顧客にとり表面的には類似的な機能を持っているため、必ず比較の対象になってしまうからである。IR推進法(案)が実現すると、スロット・マシーンは賭博として認知され、金銭を賭すゲームで金銭が賞品となる。一方パチスロは、賭博ではなくあくまでも風営適化法に基づく遊技であって、勝ち分を現金で支払うことは法律上禁止され、勝ち分となったパチンコ玉やボールやメダルは景品と交換してくれるが、店外で金銭に確実に交換できるという制度上は曖昧な三店方式という換金行為の仕組みが維持されている。賭博行為としてのスロット・マシーンが法律上位置づけられるならば、パチンコ・パチスロも、現実の有り様を法律上、より明確になるようにすべきではないかという意見も根強い。いずれにせよ、類似的な二つのものが異なった制度の下にあることは極めて解りづらいし、これらを比較する議論が生じてしまうのは避けられそうもない。過去、民主党の議連(娯楽産業健全化育成議員連盟)は、カジノの立法化と共に、パチンコ業法を別途制定し、風営適化法からパチンコを切り離すべきとする主張をし、法案要綱を公開したことがある。但し、考え自体が未熟なものであったため、法務省等から問題外として門前払いをくらったという経緯すらある。
遊技は風営適化法に基づく認可事業であって、賭博行為ではありえない。そもそも賭博行為とは、複数人が、偶然の勝敗によって財物や財産上の利益の得喪を争う行為を意味するのだが、刑法第185条には「一時の娯楽に供するものを賭けたに留まるときは、この限りでない」旨の但し書きがあり、全ての行為が禁じられているわけではない。もっとも「一時の娯楽に供するもの」の判断とは、賭けられたものの金銭的価値を中心に、賭博の種類などの具体的状況と社会通念から判断するのであろうが、法の運用解釈基準としては曖昧さが残る。例え一時の娯楽であっても高額な商品等を賭けの対象とした場合には、賭博として摘発されることもある。低額の商品の場合には、ギャンブル的な要素は少ないと見なされるのだが、客観的な基準があるわけではない。尚、金銭そのものを賭ける場合には、金額の多少にかかわらず財物として処罰対象になることが基本と裁判所は考えているようである。一方、現実社会の複雑さは、この刑法上の規定や運用解釈の枠組みの外で、類似的、かつギャンブル的な行為が存在してしまっていることにある。遊技は、ボールやメダルを借りて、遊び、勝った場合には景品と交換できるのだが、他に市場性があるとも思えない特殊景品を取得し、これを店外に持ち出すと、偶々そこに景品交換所(業態としては古物商)があり、特殊景品を金銭と交換してくれる(実態は特殊景品の売買)という仕組みが定着している。風営適化法第23条は、①現金又は有価証券を賞品として提供すること、②客に提供した賞品を買い取ること、③遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物を客に営業所外に持ち出させることを禁止している。三店方式は、形式論としては直接法に抵触しないと解釈することにより成立しているのだが、①特殊景品という汎用性の無いツールを用い、②景品交換所、卸問屋、パーラー間で閉鎖的に景品と資金が回る仕組みは、果たしてアームズレングスな取引といえるかに関しては大きな懸念が残る。機能的には、特殊景品を金銭に交換する仕組みが閉鎖的にビルト・インされている以上、限りなくギャンブル的な行為に近いのではないかとする議論がどうしても生じてしまう。法の形式解釈により、合法性のベールで覆っているだけでもあり、限りなくグレーな領域になることが現実でもあろう(もっとも、形式論や法の解釈論に拘泥する日本人と異なり、外国人識者は実体論から判断し、遊技を単純にLow Stakeの疑似賭博行為ないしは賭博行為とみなしている)。逆にLow Stakeである以上、金銭を景品としても庶民の娯楽、一時の娯楽であって、賭博ではないとする議論が、遊技業界の中に存在するが、司法上の判断を経たものではなく、法的には通り難いと判断することが常識的な考え方であろう。
この様に、極めて機能的に類似的な行為が異なる制度下にあり、かつこれが賭博と遊技という議論を呼びかねない領域である場合、中長期的には必ず比較され、制度として曖昧なシステムや制度の在り方は何らかの修正を迫られる公算が高い。その意味では制度としての遊技の在り方は現状の是非、新たな法制度措置を含め、中長期的には解決を迫られる課題になるといえる。この場合、必ず厳格な制度や規範がベースになることが想定され、果たしてこれが遊技業界にとってメリットとなるか否かについては議論が起こりそうである。
一方、これに対し、カジノの議論を好機としてとらえ、これを期として新たな遊技業法を制定し、明確に遊技をlow stakeの賭博行為として、制度上位置づけ、換金問題を合法化する契機とすればよいとする意見もある。但し、単純でないのは、政治的、行政的な同意を得て、国民の納得する制度へと遊技の制度的有り方を変えていくためには、業界内部での合意形成や、業としてどうあるべきかとする明確なビジョンや方向性が見えていなければ、複雑な利害関係を調整できないことにある。単純な形での解決はありえず、やはり時間がかかることになるが、中長期的には制度のあり方が議論になる可能性が高い以上、業界としての意思統一を図り、早い時点で行動に移すということが本来志向すべきアプローチでもあろう。但し、国民の理解と支持が必要で、この為には相応の努力と時間が必要となる。また、一部大手ホール企業や上場企業である関連機械メーカーは、これを契機とし、カジノへの新たな参入意欲を示しており、これにより業態変革を図ろうとする企業も存在する。この意味では、遊技業界は明確に一部巨大企業と零細なグループに二分化しつつあり、大企業となる大手ホール企業や上場企業である機械メーカーは、カジノ立法化を明確に好機としてとらえ、自らもカジノ業へ参入することを狙っている。