新たな賭博法制としてのカジノ法制が議論される際、既存のパチンコ・パチスロ業界はこれに反対するのか、あるいは賛成なのか、市場自体は今後どう変化していくのかなどカジノとのインターフェースに関し、様々な問題や、懸念が提起されることが多い。スロット・マシーンとパチスロは、機能的に極めて類似的な存在であること、遊ぶことの帰結が、最終的には金銭的報酬となりうること、巨大な既存の遊技市場と新たなエンターテイメント賭博市場とのかかわり合いが双方に影響をもたらいしうること等の事情があるからであろう。これら諸懸念は下記に要約できる。
① 遊技業界がカジノ実現に関し、大きな反対勢力になりうるとする懸念:
遊技は賭博ではないとする前提を取った場合、制度的にも、考え方としてもカジノに関する制度や法律は遊技とは全く異なった論理で構築されることになる。賭博と遊技は全く本質が異なる以上、本来お互いが競合することはありえない。遊技業界が表だってカジノ賭博に反対することは、自らの立場が賭博行為に限りなく近いことを認めることにもなりかねず、自己矛盾になりかねないし、説得力のある主張になるとも思えない。また、遊技業界自体がカジノに対する一大反対勢力になるのではないかとする意見もあるが、遊技業界自体が一枚岩ではなく、多様な団体や異なった意見があり、必ずしもその団結は強いものではない。業界自体の纏まりがつかない現状では、組織的に遊技業界が大きな反対勢力になることは想定できにくい。
② 射幸性の高いカジノによる遊技の市場略奪・顧客略奪が起こりうるとする懸念:
当面実際できるカジノは数か所、数千台のスロット・マシーンは設置されるだろうが、現状我が国に存在する12,000ヶ所のホール、458万台の遊技機械とは比較できない程限られた小さな市場でしかない。ハイエンドの賭博志向の強い顧客は確かにその一部がカジノに流れるかもしれないが、そもそも施設へのアクセスの難易度や顧客の訪問動機が異なるがために、両者が志向する顧客層は同じとは想定できない。カジノ施設は、手軽に誰もが行ける庶民的な施設というよりは、遊ぶ目的をもって特定の場所に行かなれば遊べない高規格の施設でもあり、施設の訪問目的もお互いに異なる。この意味では、限られたカジノ施設と遊技施設との間で、大きな競合は起こり難く、短期的にカジノが遊技業界の経営に何等かの否定的な影響を及ぼすことは想定できにくい。
③ 遊技業界に対する警察当局の取り締まりや射幸性判断基準が益々厳しくなるとする懸念:
一方、警察当局から見た場合、新たな賭博法制ができるということは、機能的に類似的とみなされる遊技を如何に位置づけるかに関しては極めて微妙な問題をはらんでくる。庶民の軽微、簡易な娯楽と位置付ける以上、射幸性の高い機械等認められる余地はなくなり、締め付けが厳格になること、違法行為や脱税行為等に対してはより厳格な措置が取られることになることは明らかであろう。賭博と遊技をできる限り差別化し、遊技の立ち位置を賭博とは別のものとする施策が取られる場合、段階的に規制の在り方が厳格化することになると想定できる。逆は有りえない。
④ 結果的に遊技市場が縮小化するのではないかとする懸念:
遊技市場の縮小化傾向は、過去20年間継続的に生じている事象でもあり、顧客層の在り方も含めて、業界自体が抱える固有の問題になる。消費税増税や、カジノ賭博の法制化等の外部要因が、これに拍車をかけて、市場の縮小化をもたらすのではないかという業界内部での意見がある。但し、カジノと遊技とでは、基本的な客層はおそらく大きく異なり、カジノ賭博は新たな顧客層を開拓しうる可能性が高い。このことは逆に、カジノ導入により我が国のエンターテイメント市場を結果的に拡大させることにも繋がりうる。
よって、カジノ賭博の導入により、短期的に大きな影響が遊技業界に生じるとは想定できにくい。もっとも中長期的には、これら二つは比較の対象となり、現状の曖昧さを排除し、何等かの形で遊技の在り方を制度的に位置づけようとする動きが生じてくるものと推定される。一方、直近の遊技業界の課題としては、現状のような、警察当局による遊技業界の庇護、監督、監視の体制が維持される限り、明らかに遊技を限りなく賭博行為とは遠い世界に位置づける規制が強化されることになるに違いない。果たしてこれが中長期的に遊技業界にとりメリットをもたらすか否かに関しては懸念が残る。問題を解決するアプローチではなく、できる限り問題を避けることを目的としたアプローチだからでもある。