オランダのスキポル空港は、欧州でのハブ空港としても知られ、乗継客の便宜を図り暇つぶしのために空港内に小規模カジノ施設があることで知られている(最も実際に何度もいったことはあるが、殆ど顧客はなく、常にガラガラである)。運営者はホーランドカジノ。正式にはNational Foundation for the Exploitation of Casino Gaming in Hollandと呼称し、オランダ国内において賭博行為の国内独占権を保持している非営利財団法人となる。もっともこの財団は、オランダ法でStihitingと呼称される免税非営利法人で、この法人を通じで税収がオランダ政府の国庫に入る仕組みとなっている。Stihitingはオランダには何百万団体もある一般的なものだが、外国から見ると極めて解りにくい存在になる。免税特権があるために、第三国のタックスヘーブンと組み合わせて、企業の所有権をわからなくさせ、合法的に節税を実現する枠組みとして欧米企業が利用していることで知られている面白い仕組みを提供する。一般的にはStihitingとは簡素な組織なのだが、ホーランドカジノの様に、5000名弱の職員を有する企業的な組織もある。そのガバナンスの在り方や租税法上の枠組みは極めてオランダ的なもので、単純にこれを国営企業と判断するにはちょっと無理がある。
ホーランドカジノは欧州における典型的な中堅カジノ事業者として、オランダ国内外にその存在を知らしめてきた。2012年秋の政権交代に際し、国が実質的なコントロールを効かせられる財団ではなく、民間企業へ売却すべきという政策が時の政権により主張されたのだが、実現するに至っていない。もっとも実現するどころか、2012年から2013年にかけて、財務危機が顕在化し、どうやら破たんの瀬戸際にある模様だ。過去5年間で、売上は30%減少し、2012年は純損65万2000ユーロに達し、リストラや費用縮減を行っても、このままいけば破綻、財団解散は免れない状況にあるのではと市場は憶測している。逆に、国が強制的に関与し、実質的に国の管理下としてしまうのではないかとする意見すらある。
現実に起こった事象とは、
① 顧客総数の段階的減少:
欧州における所謂伝統的な陸上設置型カジノは、段階的に人気を喪失しつつある。スポーツブッキングやオンライン・ポーカー、インターネットカジノ等、より手軽な、アクセス環境が良い市場に顧客が流れたと判断されており、オランダもその例外ではなかったということになる。欧州市場は地域毎に分散しているため、カジノを主目的とする他国の来訪客は限定され、あくまでも地域市場を基本とする閉鎖的な市場が基本になる。
② 競争的環境の激化と古いビジネスモデルの衰退化:
伝統的な陸上設置型カジノは、利便性、アクセスの悪さ等より、インターネットを通じたスピード、利便性を売り物とする他の賭博種と競合し、欧州全般で劣後する状況にある。国内市場が左程大きく無く、成長も見込まれない場合、新たな賭博種の登場は、顧客の取り合いという事象をもたらしているわけである。
③ 顧客支出単価の減少:
上記現象はオランダでは顧客総数の減少と共に顧客支出単価の減少をもたらしてしまった。ホーランドカジノの場合、赤字は止まらず、負債総額は6000万ユーロ($80.4M)に達しており、このままでは時間の問題で、1億€に達するとみられている。累積する赤字、リストラに伴うコスト、あえて実施した施設改善投資の償却負担増等が拍車をかけて赤字増をもたらした模様である。破綻を避けるために労賃18%カットを組合と交渉中で、これが実現しないと破綻かという見解すらある。
もっとも欧州における陸上カジノの市場縮小はオランダだけの話ではない。欧州カジノ協会は、欧州23ヶ国のカジノ事業者の団体となるが、ここ4~5年の統計を見ても主要欧州諸国では、年々陸上設置型のカジノ施設の総粗収益レベルが前年比割れの状況をもたらしており、2011年から2012年にかけては特に欧州主要カジノ国でもあるフランス、ドイツ、スイス、オランダ、イタリア、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリーでは2%から22%までの範囲で市場収縮が生じてしまった(23ヶ国中主要13ヶ国で市場は前年比縮小)。この傾向は継続しつつある。環境変化や時代の変遷と共に、従来あった賭博種の人気が段階的に少しずつ減少し、他の賭博種やネットを通じた遊びに流れ、売上が減少するという事象は我が国の公営賭博や遊技と極めて類似的な事象になる。閉鎖的な環境の中で、世の中の趨勢を正確に察知し、対応策を実施しない限り、サデン・デスもありうるというのが現金商売のビジネスの基本でもあろう。この意味ではホーランドカジノの財政危機は、わが国にとっても他山の石として参考とすべき側面も多い。費用縮減やリストラを果敢に実施しつつ、一方ではより積極的に新たな顧客を取り込み、既存の顧客に一定の支出を維持させるようなモチベーションやインセンテイブを常に展開する積極的施策を取らない限り、市場から見放されるということでもあろう。この意味ではカジノ産業も通常のビジネスと大差無いということになる。