業としての賭博行為は、その運営が公正、公平になされることが全ての原則になる。公正、公平であるからこそ、顧客の信頼、信用を得ることができるわけで、もしその運営に不正やいかさまがあれば、だれも信用せず、確実に顧客の離反を招くことになりかねない。この不正やいかさまは、運営を担う主体の内部組織にも起こりうるし、かつ顧客側にも起こりうるという二つの側面があることを理解する必要がある。ゲーミング賭博に係るリスクで一番怖いのはハウスに働く内部職員による不正やいかさまである。内部の仕組みや手順を知っている者が不正を働けば①露見しにくいこと、②甚大な被害が起こりうること、③施設としての信頼を喪失し、確実に顧客が離れ、事業そのものが成り立たなくなってしまうこと等がその大きな理由となる。これを避ける為の制度や規制が精緻に構築されることがゲーミング・カジノ制度の特色になる。このために、ハウス内部における現金・チップ等取扱い手順を詳細に手続きとして ルール化して取り決めたり、内部ビデオ監視義務及び映像記録保持義務を設けたり、職員の相互監視のシステムを義務づけたりしている。記録に残らない現金の移動が一番の不正をもたらしやすいリスクになる為に、常に職員の行動を誰かが監視しているシステムを構築することになるわけである。顧客による不正、いかさまもないことはないが、怖いのは、内部の者(例えばデイーラー)と顧客がつるんでしまう場合で、意識的にデイーラーが顧客を勝たせ、顧客と共謀し、金を盗むことも不可能ではない。勿論顧客だけのいかさまもありえ、例えば、デイーラーが見ていない間に、顧客自身がカードをすり替えたり、何らかの操作によりいかさまをしたりする場合などである。これに対する基本的な対策は、デイーラーを含む現場の職員が相互監視を行うと共に、可動式・固定式ビデオ監視システムにより、顧客、職員を問わず、常時不審な行動を集中管理室で監視することにある。場内においておかしな行為がないことを常にチェックすると共に、大金の動きや不審な行動に注目して、天井のビデオカメラにより顧客の行動を監視する。小銭で不正を働く者は世の中にはおらず、必ず大金が動くために、ここに着目して監視するわけである。因みにテーブルやマシーンにおけるゲームの展開はその全てが映像により記録、保管され、問題が生じた場合には、常に再生、実態を検証できる仕組みとなっていると共に、犯罪捜査に際しては関連する映像記録の提出義務がある(この場合の映像は顔?ではなく、ゲームの手の内と進行の様子で、例えばテーブルの真上からデイーラーと顧客のやりとり、ゲームの進行が全て固定式カメラにより映像にて記録される)。
なさそうで現実にあるのは、顧客によるチップの偽造で、金銭に交換可能なプラスチックやクレイで作られたチップを外部で組織的に偽造し、これを現金に換える輩がでてくることが儘ある。デイーラーやキャッシャーがこれを発見できなかった場合には、ハウスは致命的な損失を被ることになりかねない。単純に偽造ができない工夫が凝らされているとはいえ、通貨やコインを偽造する事件すらあるのだから、カジノのチップを偽造することなど今や技術的には単純なのかもしれない。これを防止する究極の手段は、カジノのチップにICチップ(RFID, Radio Frequency Identification)を埋め込み、チップの個体識別をさせ、不正チップの混在をチップに接触せずに、電子的に識別させることで、既にラスベガスやマカオの一部のカジノ施設では実験的に導入されている。チップの単価は高くなるが、もしかかる考えを全面的に実施した場合、チップの偽造はまず不可能になる。
健全かつ安全な遊興としての賭博行為とは、不正やいかさまを根絶することにより初めて可能になる。もしかかる不正やいかさまが現実に生じたとすれば、確実に顧客の離反を招くことになりかねない。ゲームとは僥倖により顧客が金銭を賭す遊びでもあり、顧客にとっての公平性を保持できなくなることはカジノ・ハウスにとっても最大のリスクとなってしまう。かかる事情により、不正やいかさまには当然厳罰が課されると共に、運営手順や、運営手法等は規則により詳細を規定し、限りなく人為的裁量性を排除することがゲーミング・カジノ法制の本質でもある。尚、職員であれ、顧客であれ、何らかの理由により一端、問題を興した場合には、ブラック・リストに掲載され、以後、個人に免許・認証・就業許可は認められず、関連する業に従事することはできなくなるのが通例である。潜在的にリスクとなりうる主体は、一切カジノ施設へは関与させないことが遵守されるべき原則として貫徹されることになる。