インテグリテイー(Integrity)という英語がある。通常の日常会話でかかる言葉が用いられることは少ないが、辞書を紐解くと、日本語では「清廉潔癖性」(あるいは廉潔性)とでも訳すべき言葉になるのであろうか。米国ではこのインテグリテイーという言葉や概念がゲーミング・カジノに関与しうる主体にとり、考慮されるべき共通的な規範ないしは価値観を表す表現として用いられている。また、米国ではこの考えを基本として、法や制度、規則が構築され、実際の法の執行がなされている。
さて、ではこのインテグリテイーの中身とは一体何であろうか?
この言葉の要素となる考え方とは、①毅然として、悪の誘引・誘惑に絶対負けないこと、②正直であること、③法遵守(コンプライアンス)を厳格に実施すること、④これを支える個人としての人格や資質、財務的状況などが品行方正で適切であること等になる。この結果、ゲーミング・カジノの行為に直接的あるいは間接的に関与しうる民間施行者及びその構成員たる主体の主要株主、経営者、管理職やデイーラー等ゲームや金銭取引に関与する職員等あるいは間接的に施行を支える機械・用具・システムの製造者・供給者、関連しうるサービス提供者等は、過去も現在もまた、将来も、一切、犯罪に直接的、間接的に係わり合いの無かったこと、又現在も、今後も無いことが求められると共に、過去、現在に亘り、私的、公的な側面において悪や組織悪との係わり合いが無かったこと、現在も将来も無いことが求められる。このために、この業に従事する者は、全てライセンス(免許)を申請し、取得し、かつこれを適正、適切に保持する義務がある。このために、申請者は規制当局に提出する詳細な申請書類により、自らの適格性を規制当局に立証する必要がある。また、規制当局が背面調査によりその信憑性を審査して、検証することになる。これら全てのハードルをクリアーして、初めてゲーミング賭博に係わる職につけるライセンス(免許、またこれは労働許可書のごとき就労許諾書をも意味する)を取得することができる。但し、もし一定の基準を保持できていないことが露見した場合には、直ちにこのライセンスは規制当局により剥奪されることになる。このライセンスは、一定期間のみ有効、かつ継続を欲する場合には更新申請が必要で、類似的な申請行為を再度せざるを得ないという誠に面倒くさい手順を取る。また、カジノ・ハウスの経営者や主要職員等は、ライセンスを取得しただけではダメで、(税務申告とは別個に)規制当局に対し、個人の資産や財務状況などを定期的に申告し、家族の分も含めて不審な資金の入り?が無いことを立証する義務を負わされるのが通例となる。単純に考えればとんでもない規制であり、こうなるといくら法律上の根拠があるとはいえ、個人情報もへったくれもない世界になる。米国のカジノ業とは、原子力発電所以上に、その構成員に過酷なほどの規制を課し、かつその行動に清廉潔癖性を求める業態でもある。自由な国、米国において一定の業を担う民間人に対し、果たしてここまでやる必要があるのかという程に、その資格、人となり、社会的名声、個人的な資産状況及び財務状況、資金の出入り、及び家族の資産状況等をチェックされることになるわけだ。清廉潔癖性とは、一転の汚点をも許さないという考えなのだが、禁酒法等を作った国民柄である。どうも極端に走りすぎる米国人の性向が垣間見られる。但し、ここまで徹底しない限り、悪や組織悪は参入しかねないというのが米国における貴重な歴史的事実でもあった。マフィアをカジノ施設から完璧に排除するためには、かかる厳格な参入規制をとり、リスクがある主体は一切この業に関与させないという強い政策的意思が必要だったのであろう。
この同じ価値観は、施行を担う主体とともに、これを規制する規制当局や法の執行を担う警察当局・公安当局いずれにも共通して、適用されるべき価値観として、定義されることが常になる。規制主体や公安当局になぜ?といぶかしがる向きも多いと思うが、米国では過去、規制当局や公安当局までマフイアの手が伸び、汚職や賄賂などが現実に生じたことがあった。公的部門に関与する人達も含めて、曖昧な関係や疑わしい行為を避けることが求められているといってもよい。このような考えは、マフィアをゲーミングから完全に排除するという規制・公安当局による熾烈な戦いの中から生まれた概念で、かかる徹底的な要件が過去要求され、現在まで続いているということになる。だからこそカジノは健全かつ安全といえるのだ。