カジノ産業が、健全な産業として定着している米国等では、制度や規制の在り方や監視のシステム等は長年にわたる経験を経て定着したものになっており、これに基づき機械施設やシステムが各施設に設置されており、この根本が急に変わるということはない。既に市場において、事業者による膨大な投資がなされ、様々な事業が現存している以上、これを制度的理由により、一挙に変えることは、多大の投資を要求することにもなりかねず、非現実的だからである。一方、新しくゲーミング・カジノを制度として創出する環境の国では、情報技術の飛躍的発展を制度の中に取り込み、規制や監視の在り方を大胆に、電子化、情報武装化し、かつ監視や管理を合理化、簡素化する試みが実践されつつある。現場のカジノ施設において、電子化・システム化が進んでいる以上、カジノ事業者や従業員の行動を監視する立場の規制者も、電子化・システム化を前提に行動した方が、より効率的、合理的だからである。この前提で制度を構築することになるが、これにより、規制の社会的費用を大きく下げることが可能になり、かつ監視を効果的、効率的に実践することができる。
現在のカジノ施設の現場では、スロット・マシーン等の機械は、ほぼ電子化されており、キャッシュレス化を前提に、金の出入りや機械の開け閉めに至るまで全て記録をとり、完璧に人為操作を不可能にするシステムが構築されている。このシステムの端末機器をオンラインで規制当局の端末につなげることにより、リアル・タイムで全てのデータを規制当局が把握できるしかけが可能になっている。機械に関する資金の流れを全て透明化し、規制当局が、これを電子記録として把握するわけである。これにより、規制当局が毎日把握する電子記録と現場における現金勘定残高がもし、異なっていれば、何らかの不正がなされたということになり、不正の摘発が、限りなく簡素化されることになる。その場で監視する必要もなく、限りなく、監視が楽になる。同様に、テーブル・ゲームを含むカジノ・ハウスの売上、入出金、チップのインベントリー等も全てシステム化されたデータとして、リアル・タイムで都度記録し、規制当局がオンライン端末でこれを捕捉できうれば、内部的には不正が起こるリスクを限りなく縮小化することができる。新しくカジノ制度を創設したスイスでは、事業者に規制者のためにかかる管理システムを事業者費用負担で作ることを制度で要求し、これを実施したという経緯がある。もっともかなり複雑になりすぎてしまい、実態は、現場で運用しながら簡素化し、現実に適合させるようにしたという話である。運営を担う事業者は、全くのガラス張りの中で、全ての運営データを捕捉されることになる。
なぜここまで必要なのであろうか。
売上に対するゲーム課税が前提となる制度のもとでは、売上を正確に捕捉することが、絶対に必要になるとと共に、売上額を確定する前の段階で、内部の者が資金を横取りしたり、かすめ取ったり、隠したりすることが無いように、あらゆる規制や監視の網の目が敷かれることになる。米国のカジノ施設では、今でも、ソフト・ルーム、ハード・ルームと呼ばれる売上を当局の監査官立会のもので計算し、確定する部屋がある。ソフト・ルームとは、紙幣及び、チップ等、ハード・ルームとは、コインの計算になり、確定した売上が査察官により認定され、これが課税標準になるわけである。これでは監視する側にも、応分の労力と負担を必要とし、金銭取り扱い手順等もかなり複雑になってしまう。もっともキャッシュレス・マシーンの登場とスロット・マシーンの電子化は所謂ハード・カウントという大量のコインを計算する作業を一切不要なものにしてしまった。この意味では、ハード・ルーム、ソフト・ルームと区別すること自体が前世期の遺物になろうとしている。新しく制度を作る国では、規制し、監視をする当局側も、電子武装し、情報を共有することが、技術的に可能となっており、事業者の費用負担によりシステムを開発させ、オンライン端末を規制当局に設置する。これを可能にするように制度や規制を予めつくればよいということであろう。
米国のラスベガスでこれが行われていないのは、既存のシステムを変えることは、事業者に多大の投資負担を強いることになるからで、現実的ではないという理由による。一方新しく制度を創出する国では、規制の前提にかかる電子的手段を取り入れることにより、不正を限りなく根絶できる仕掛けを工夫することができることになる。事実かかる慣行が様々な国で定着しつつある。