カジノの総施行数を市場にて限定しない政策を取る場合、原則、誰もが自由に申請し、許可を得られれば何処にでも設置できるという建前になる。勿論これで全てが単純にうまくいくわけではなく、この場合には、通常、参入要件は厳しくなり、施行に参加する資格要件のハードルは高く設定され、健全かつしっかりとした主体でなければ免許(ライセンス)が付与されることはない。もっともかかる国、地域はありそうでないのが現実で、米国でもネバダ州のみになる。その他の米国諸州あるいは諸外国においても、かかる遊興施設を自由に設置することは認められておらず、明確に設置数や規模、設置可能な地域・区域に制限を設けている。いわんや諸外国においても、自由に設置できるという事例は殆どないのが実態であろう。
この意味では、世界中のほぼ全ての地域や国において、地域や国毎に、一種の「市場管理施策」がとられていることになる。これは市場において供給されるゲーミング・カジノの供給絶対量を国として管理し、一国内において、供給総量を制限することにより、一種の需要抑制策をとるという考え方でもある。過度の供給は必ずしも好ましくないという社会政策的な配慮がある。競争を制限させ、確実に事業性を良くすることにより、確実な税収を確保するという狙いにもこれは繋がっている。競争環境下で事業性が悪化し、収益が下がり、税収が減るリスクよりは、絶対額として税収を安定的にかつ確実に確保する方が、中長期的には安定化した施行を期すことができ、メリットも大きいと判断するわけである。
さて、かかる市場管理施策をとる場合、当然のことながら施行地域・施行数は限定され、これに関与できる施行者も限定されることになる。まず地域指定が先行されるべきこと(地方政府の選定)は既に述べたが、地域指定を受けた地方政府が、施行を担う事業者を選定する手順、選定判断基準も、その基本的な考え方は、予め明確に取り決めておく必要がある。通常は、一定の選定判断基準、手順を定め、これを公開し、政治や行政から中立的な審査委員会等の機関が審査・評価者として関与し、競争公募(企画提案コンペ、交渉方式による公募選定になる)により事業者の提案を受け付け、選定するという手順がとられる。この場合、選定された事業者並びにその構成要員の適格性は、別途規制機関がこれを認証して、初めてこの選定が有効になるという考えになる。かかる考え方、アプローチは70年代以降、豪州やニュージーランドで用いられた手法(国際競争による提案公募方式による事業者選定)で、当初は、オセアニア方式とも呼ばれていたが、その後は一部米国やその他の国々でも類似的な手法による事業者選定手続きが試みられている。一定のコンセプトを要件提示し、これに答える提案を求めるという入札になるが、その選定判断基準は、例えば①投資額の多寡、②想定される地域社会に対する経済効果(集客、雇用、消費、税、観光客誘致力)、③施設やサービス、コンテンツ等付帯施設を含めた提案内容、④地域に対する貢献の度合いなど、案件ごとに当該政府の政策を反映し、異なる。2000年にスイス連邦政府がとった考えは、総数を決め、事業者に地域選定を含めた施設提案をさせた。この場合、地域社会の同意取り付けや地点の選定等は全て、応札前の時点での事業者の負担になり、この事業者の提案をパッケージとして、地点も含めて決めてしまうという手法でもあった。2005年シンガポール政府が行った入札は、地点と、大まかな施設類型と要求水準を政府が定め、このコンセプトを実現する具体的な提案を世界中のカジノ事業者から公募で募るという大々的な仕掛けでもあった。これは、世界中の投資家の注目を浴び、14の世界各国の企業グループが二つの案件に応札することになった。公募方式による事業者選定は、一種の提案競争になり、提案者は何と政府による評価の全費用を分担する前提を合意した上で、応札しており、政府は一銭も出さずに、巨額の民間事業者による開発投資誘致を実現したわけである。
このように、事業者選定に際しては、競争環境をうまく活用し、如何に政策メリットを出させるかの仕組みを工夫することにより、様々な政策目的をこの中に組み入れ、実現することができる。民間主体の投資誘致を図るという形で効果的な施設整備や政策目的を一挙に実現できるわけで、為政者の着目はここにあるといっても過言ではない。