ゲーミング・カジノは一種のサービス産業で、かつ顧客を対象とする現金ビジネスであって、毎日顧客があり、これら顧客が来訪し、支出し、現金収入がなんぼという業態でもある。所詮、余暇・レジャー、遊びの世界である。かつこの賭博ビジネスというのは、その特性として、常に一定の顧客が存在し、その施設数が限定される市場においては、経済の好況、不況に関係なく、極めて安定的、かつ着実な産業になるという見立てが伝統的な考え方でもあった。我が国における過去の公営賭博に関しては、その売上や収益の推移をみると、昭和20年代末期より一貫して成長しており、確かに時代の好況、不況に拘わらず、公営賭博や公営競技は、不況には強かったといえる。もっともこれが事実であったのは、公営賭博の売上がピークとなった平成9年頃までの話でもあり、その後は、市場は縮小化しつつあり、段階的な衰退局面にある。これが公営賭博自体の魅力が減少したことによる顧客減、収益減なのか、あるいは不況による顧客減なのか、あるいはその両方なのかを識別することは難しい。但し、毎年毎年顧客が減り、収益が減りつつあるという状況は明らかに、構造的な問題があり、人気が低迷し、ファンが離れ、かつ顧客による賭け金単価が減少しているからであろうと判断されている。市場環境は大きく変化しつつあるのであろう。
一方、諸外国でも同じような議論がある。余暇産業、特にゲーミング産業は過去、不況知らずの産業と言われてきた。たとえば米国ネバダ州、ラスベガスは、ゲーミング・カジノの制度が制定され、精緻化された1960年代後半以降、数々の不景気にも拘わらず、あるいは9・11テロ事件にも拘わらず、数十年に亘り一貫して来訪顧客数、収益規模も上り調子であったのが現実となる。不景気であっても余暇は余暇、リゾート需要は常に継続して存在し、ゲーミング賭博は安定的な成長を継続すると思われていた。思われていたと書いたのは、2008年のリーマン・ショック以降、さずがに、2009年にかけて、世界の余暇市場やリゾート地域、観光産業や余暇施設、またゲーミング賭博施設等に数十年来なかった大きな変化が生じてしまったからである。経済の衰退は、旅行客やビジネス客、特にコンベンション顧客を減らし、かつ明らかに顧客の支出単価を減少させた。また、マクロ経済の停滞と共に、滞在型観光地やリゾートにおけるカジノ施設の訪問顧客数と収益は2008年から2009年に至るまで、前年比で大きく落ち込んだが(特にネバダ州ラスベガス市やニュー・ジャージー州アトランチック・シテイー等、娯楽とカジノに特化した地区の落ち込みが激しい)、2010年以降はようやく市場全体としては復調基調に戻り、2011年も堅調な伸びを示すに至っている。但し、これは不況に伴い、新しく制度を設けてカジノを設置したり、スロット・カジノや競馬場併設スロット・カジノを認めて、売上・税収増大させる施策を取ったりした州が増えたことにより、全体供給余力が向上したために、市場規模が大きくなったものと想定されている(供給が需要を引っ張っているということになる)。
もっともラスベガスのストリップ地区等ではゲーミング・カジノ関連売り上げは全体の60%になり、残りの40%は宿泊、飲食、物品販売、エンターテイメント等のアメニテイーや多種多様の娯楽関連サービスが占め、売り上げ比率から言えば、カジノ・コンプレックスはもはや単なるギャンブラーのための施設ではなく、ファミリーやビジネス客、観光客等多様な顧客を対象とした複合観光施設と定義することがより適切になりつつある。支出単価の高い顧客を集客でき、消費を促す効果があるからこそシナジーをもたらしたのであろう。このシナジー効果が、地域経済の発展を支えてきたという経緯がある。これは、カジノは重要、だがカジノだけには依存しないという健全な普通のリゾート施設にラスベガスがなってきたことを意味する。しかし逆説的だが、そうなればなるほど、この産業はマクロ経済の変動の影響を受けやすくなってしまう。人の移動や観光、コンベンション需要が下がると、全体売上が落ちてしまうという通常の観光産業と変わらなくなってしまうわけである。この意味では、収益レベルに比し、負債が大きなカジノ運営企業の中には2008年から2009年にかけて、収益で費用を賄えなくなり、破たんしたり、債務リストラをせざるを得なくなったりしたカジノ施行者も少なからず存在した。
勿論、全てのカジノ施設が低迷したわけではない。大都市近郊や手軽な場所におけるカジノは不況でもいまだに堅調な所も多い。あるいはコンビニエンス・カジノと呼ばれる街中にあるスロット・マシーン・カジノは、米国においても、不況時にも拘らず堅調であった。ラスベガスへ行くよりも、手軽に楽しめるということなのであろう。賭博に対する潜在的需要は常に存在し、従来かかる遊びが施設として提供されていなかった市場においては、現在においても、健全な需要があるということになる。