アルバータ州では、連邦刑法の規定を政府自らないしは非営利主体のみが、賭博行為を施行できると解釈し、「慈善カジノ(Charitable Casino )」と呼ばれる独自の制度が創設され、発展してきた。1986年の連邦刑法改定に基づき、1987年以降、州政府は、適格となる非営利の慈善団体や宗教団体等をカジノの主催者(スポンサー)として認定し、各々の団体に年2日間のカジノを施行する権利を「ゲーミング・ライセンス」(Gaming License)として付与してきた。このライセンスはゲーミングを施行できる権利を認めるライセンスに過ぎず、非営利団体がこれを保持しているだけでは、施設も人材も持っていない以上、何もできない。一方、ゲーミングないしはロッテリーないしはこれら両方の活動を行える施設を投資・整備し、非営利団体であるゲーミング・ライセンス保持者との契約行為により、運営実務を行うことのできるライセンスを「施設ライセンス」(Facility License)と呼称し、別途これが民間営利事業者に付与されることになる。この二つが存在し、初めてゲーミング・カジノ施設の運営が実現できるという仕組みになる。即ち、慈善団体はあくまでもカジノのスポンサーであって、収益はこの慈善団体に帰属する(政府はライセンス料を徴収するが、慈善カジノ施設から税を徴収するわけではない)。一方、施設ライセンス保持者は、施設を整備・所有し、デイーラー等の職員を雇用するが、彼ら独自ではカジノの運営はできず、必ずスポンサーとしての慈善団体と予め契約を交わして、費用と収益の分担を取り決め、初めて運営ができることになる。施設ライセンス保持者は、ゲーミング・ライセンス保持者である慈善団体との契約によりコストプラスフィー方式で報酬を受ける。この仕組みを「慈善カジノ」と呼称している。規制主体は大蔵省傘下の機関であるAGLC(アルバータ州ゲーミング・アルコール飲料委員会Alberta Gaming & Liquor Commission)である。
2010~11年時点で適格性があると判断され、カジノのライセンスを取得した同州の慈善団体・宗教団体・NPOは、なんと3,524施設あり、これらの団体が順繰りに、カジノのスポンサーを途切れなく担っていることになる(すなわち二日毎にカジノのオーナーが交替する)。現実には既に2年分のウエイテイング・リストが存在し、待ち時間は16ヶ月から33ヶ月に亘る。一方、職員・施設を保有している実際の運営主体(施設ライセンス保持者)は同一であるため、混乱はなく、スムーズな運営がなされている。尚、慈善団体は、カジノの施設規模に応じて、15人から33人のボランテイアを提供する義務があり、一部運営行為にも参加する。2010~2011年時点では、これらゲーミング・カジノ施設は年2億3060万カナダ㌦の収益を計上しているが、カジノ関連のこの収益は州政府の課税対象にはならない(同年度におけるカジノ賭け金総額は9億718万カナダ㌦, 内7億8530万カナダ㌦は顧客に戻され、施設ライセンス事業者費用が1億1920万カナダ㌦となり、慈善団体にとっての純利益が6730万カナダ㌦で、これにスロット/ケノの追加収益1億6330万カナダ㌦が加わり、慈善団体取り分は2億3060万カナダ㌦となっている)。かかる事情により、同州のゲーミング・カジノ施設は、民間事業者が巨額の資金を投入して、複合的な施設を設けるという考え方からは一線を画す施設ともなり、一種のコミュニテイー対応の中小規模カジノ施設でしかない。規模も小さく、施設数も限定され、他の賭博種と比較すると、その経済効果は小さいことがその特徴でもある(施設規模を大きくしたり、施設に投資する誘因が働かなかったりすることがその背景にある)。
2011年末時点において、同州内で認可を得た施設ライセンス事業者は24施設存在する(19施設が民間施設ライセンス事業者で5施設が先住民部族カジノとなる)。尚、興味深いことに、アルバータ州では、部族カジノも部族自体を一種の慈善団体と見なし、同様の考えでライセンスを付与しているのだが、この場合には当然のことながら、二日という期間の制限はない。一方、施設ライセンスを保持している民間事業者に施設の整備、運営を委ねているという仕組みは慈善カジノと同一である。
この様に、アルバータ州では、カジノ自体は、政府賭博収入にはほとんど貢献していない。同州の賭博税収の過半は、カジノではなく、自らがスポンサーとして事業を担うロッテリーになる。もっともこのロッテリーとは、通常のロッテリーのみならず、カジノ施設外に設置されたVLTや電子テーブル、電子ビンゴ等をも含む概念として定義され、VLT等の電子機械の所有者・オーナーは州政府自身で、州政府が機材を購入し、民間施設にコミッションを支払い、機械を設置せしめ、維持管理・運営を民に委ねるという仕組みになる。これら収益は全て州政府の特別勘定であるアルバータ・ロッテリー基金(Alberta Lottery Fund)に納められる。全体収益は2011年レベルで総額14億.4000万カナダ㌦となり、このうち、VLT/電子テーブル収入が収益の過半を占め、12億5600万カナダ㌦に達する。これら税収は、特別勘定から特定の省庁に配分され、様々な公共目的支出に用いられたり、賭博依存症対応民間基金への拠出や補助金等として支出されたりする。アルバータ州では、州政府の歳入の4.7%が賭博関連税収になる(カナダ平均値は2.3%である)。尚、州内におけるVLT総数は、1994年以降、法律により上限6,000台として設定されている(これを超えた機械は全て1994年時点で撤去され、一定の市場管理施策が貫徹している)。