レイシーノ(Racino)とは、競馬場に機械賭博施設を併設した複合的な遊興施設になり、専らVLT(ビデオ・ロッテリー・ターミナル)を設置し、州政府が直接的ないしは間接的に管理するロッテリー事業の一環としてこれを認める形式が米国では定着している。周辺地域に競合する賭博施設が無い場合、この試みは成功し、安定的な一つの遊興施設として認知されるようになってきている。このレイシーノは、あくまでも機械施設のみを設置するという特徴を有し、制度も規制のあり方もこれを前提にした考えになっている。もっとも、この機械賭博施設の横にテーブル・ゲームを設置することができれば、①(限りなくカジノに近い施設ではあったが)普通のカジノ施設と変わらなくなること、また②多様なサービスを提供することにより、潜在的顧客を確実に増やすことができることと共に、③確実に税収増を期待できるというメリットが生まれる。レイシーノやスロット・カジノが地域的に大きな成功を収めたという事実もこれあり、既存の制度の枠組みの中で、これら施設にテーブル・ゲームを併設することを住民投票で決めてしまうという法律が西バージニア州で制定されてしまった。
西バージニア州には、4つの競馬場が存在し、これらは全てレイシーノとして、機械賭博施設としてのVLTが併設されている。州法では賭博は禁止、テーブル・ゲームも当然禁止で、ロッテリーや、競馬、レイシーノ等は特例的な法的措置により過去認められてきたという経緯になる.一方、競馬場関係者や、税収増を狙うロビイスト、既存の民間カジノ事業者等はこれらレイシーノにテーブル・ゲームをも設置できる制度を設けるロビーイング活動を実施し、これが議会の賛同を得て、レイシーノが存在する基礎的自治体にテーブル・ゲームを認めるか否かの直接投票を実施することを州法で認めるという法律が成立した、これを「テーブル・ゲーム・レフェレンダム」(Table Game Referendum)という。 これが2007年議会に提出された法案HB-2718 号で、議会で可決され、州憲法29-2Cとして州法の枠組みに統合された。この結果、本来レイシーノとして制度が設計され、実現した施設が、住民投票により、(実質的な)カジノへと転換させることができるようになってしまったわけである。
但し、制度としては、州がロッテリーを所管する原則を規定し、その権限の枠内で、「テーブル・ゲームという形式のロッテリー」を運営できるという極めて分り難い、おかしな内容になってしまった。テーブル・ゲームはあくまでもロッテリーの一部、 これを「西バージニア・ロッテリー・テーブル・ゲーム」(West Virginia Lottery Table Game)と法律上定義としたのだが、何のことは無い、さいころ、トランプを用いる通常のテーブル・ゲーム以外の何者でもない。レイシーノの制度的枠組みの中に無理やり、テーブル・ゲームができるようにしたわけだが、かなりいびつな法律となってしまったことは間違いない。この結果、設置できるのは4つある既存のレイシーノの内、住民投票で同意可決を得た地域のレイシーノのみとなり、州のロッテリー委員会がこの「ロッテリー・テーブル・ゲーム」を機械と共に管理することになった。尚、西バージニア州では単純な民に対するライセンスではなく、施行の権利を保持しているのはあくまでも州政府で、実際のレイシーノ施設の施設整備と運営は、マネージメント・サービス・プロバイダーと呼称する民間第三者に委託することが通例となっている。いずれも州政府のエージェントとして、関連するライセンスが付与され、かつその契約行為は全て規制当局の認証の対象となる。尚、面白いのは、テーブル・ゲームを設置するレイシーノを滞在型リゾート施設と位置づけ、最低150室のホテルと関連するアメニテイー施設の投資を義務付けていることにある(こうなると、ますますリゾート・カジノ以外の何者でもなくなる)。
レイシーノの実質的なカジノ化への目的は税収を増やすことにあるのだが、事業者にとっての税コストは極めて高い。初年度のライセンス料は150万㌦、以後毎年ライセンス更改が必要で都度250万㌦のライセンス料の支払いが必要になる。ホテルを併設しない選択肢の場合には年ライセンス料は250万㌦に跳ね上がる。いわゆる税収は年特権税と呼称し、当該ロッテリー・テーブル・ゲーム粗収益の35%を徴収する。ライセンス料の一部は障害者や老齢者の為に支出されることになるが、基本税収は、従前の競馬やロッテリーと同じで、様々な競馬関連関係者や業界団体、関連する州政府の機関等に細かく配分される前提になる。ここに何らかの新しい政策的価値を見出すことはできない。
西バージニア州の経験は、賭博種が併合しあう新しい形の遊興施設の誕生を意味すると共に、技術の進展に伴い、規制や監視、制度の在り方に新しいアプローチが生まれてきたことを示唆しているともいえる。尚、ロード・アイランド州でも、類似的なレファレンダムの制度が認められ、二つのスロット・パーラーにテーブル・ゲームを設置する案が直接投票にかけられ、2011年にこれが成立した。