厳格な規制は、規制や法の執行を担うカジノ管理委員会(Casino Control Commission)並びに州ゲーミング法執行局(DGE)に勤務する委員、職員に対しても同等に適用される。いうまでもなく、①規制や監視、違法行為摘発をする側にリスクのある人間を入れさせないことが全ての前提であること、②業界との癒着、腐敗、汚職を防ぐことがその理由になる。歴史的に、癒着、腐敗、汚職が存在したという経緯があったために、かかる規定が設けられたわけである。
米国では公務員の職位や地位、権限並びに職務規定等が必ずしも一般法により制定されているわけではないために、個別の法律や内規等により、その職務規律や権限規定・責任等が規定されるという仕組みになる。同州「利害相反法」ならびに「カジノ管理法」は、カジノの規制や監視に従事する公務職員に関し、下記を規定する。
① カジノ管理委員会(CCC)、ゲーミング法執行局(DGE)に勤務すると想定される全ての職員は、雇用に際しては、予め本人による申請に基づき、州警察による個人の適格性に関する背面調査をクリアーすることが雇用の前提となる(雇用契約締結前に申請し、認可を取得する必要性がある)。
② カジノ管理委員会、ゲーミング法執行局に勤務する職員は、雇用前、雇用後いずれに関しても雇用制限規定が適用される。これら規制当局・公安当局は、ニュー・ジャージー州利害相反法、カジノ管理委員会内部倫理規定に基づき、過去3年間に亘り、カジノ施設において職務経験のある者を雇用することはできない。また規制当局・公安当局の職員は、退職後も一定の期間は、カジノ業に就職することはできない。管理委員会委員・ゲーミング法執行局幹部の場合には4年、通常の職員の場合には2年の間、カジノ関連企業に就職することは禁止となる。一方秘書、事務職などの職位はこの規定の適用除外である。
③ カジノ管理委員会及びゲーミング法執行局に勤務する直近の家族に関しても、カジノに対し直接的な影響を与えうる職務につく場合には、雇用制限規定が存在する。秘書、事務職等の責任の無い職位の場合には適用除外となるが、その他に関しては全て、カジノ管理委員会による認可の対象となると共に、場合によっては、雇用に関し、条件が付されることもある。
④ カジノ管理委員会の委員及び職員は、毎年財務開示報告(Annual Financial Disclosure)として、個人の資産並びに財務状況に関し、報告書提出を義務づけられている。公職についているものですら、違法な金銭取引や金銭の授受が無いかをチェックするわけである。但し、秘書、事務職などの責任の無い職位の場合には適用除外となる。一方、管理委員会の委員に関しては、直近の家族に関しても同様に毎年財務開示報告書の提出が義務付けられる。
⑤ カジノ管理委員会の委員及び職員、ゲーミング法執行局に勤務する職員はアトランテイック市におけるカジノ施設で賭博行為をすることはできない。
⑥ 管理委員会及び法執行局の職員は、業務時間内はそのすべての時間を職務に忠実に励む義務を持つ。またこの雇用契約外での雇用は、認可の対象となる。
⑦ 管理委員会及び法執行局の職員は、活発な政治活動に参加することはできない。
⑧ カジノ管理委員会の委員は、カジノのライセンス事業者ないしはその関係者、施設をリースしているホテル事業者等から金品の贈答やサービスなどの供与を受けることはできない。
規制の対象は本人のみならず、一部の役職者に関しては家族まで及ぶことがあるのは、金品の受領を巧妙に隠したり、本人以外の家族を通じた金銭のやり取りなどによる潜在的な不法行為があったりするためで、これを防止するための配慮になる。ライセンス申請者に課されると同等の厳格な清廉潔癖性を制度や規制を守る公務員にも求めているわけである。特に、権限を保持している主体はかかる規制の対象となる。歴史的な経緯があったために、この様な厳格な規定となっているのだが、現代社会においてかかる深さ、範囲まで厳格な規制が本当に必要なのかに関しては異論もある。関連する本人に関しては必要であっても、果たして直近の家族までも含むべきかという問題は、米国においても存在する。