フランス現代史においては1836年にゲーム賭博は全面的に禁止されていたが、1907年6月15日付カジノ法により、内務大臣の許可により、一定の判断基準に合致する場合には、温泉観光地に限り、(あくまでも観光目的の為に)例外的にカジノ運営が許諾されるようになった。同法に基づくカジノ施設とは、レストラン、スペクタクル・ショー、ゲームを自ら担う施設という条件定義が付されており、現在でもこの規定は有効で、フランスのカジノ事業者とはこの三つの活動を自ら実践する事業者として定義されている。この基本法に依拠し、以後、第五共和制においても様々な政令や規則が付加され、現在に到る法制度が構築された。現状フランスには2012年時点で195のカジノ施設が存在し、その総粗収益は23億4400万€に達する。フランスは、欧州最大の設置数・規模を誇るカジノ大国でもあるが、個別の施設の規模は左程大きいものではない。
一方、複雑なのはその制度的在り方で、1920年の内務省政令により、首都パリから100Km以内ではカジノの設置が禁止され、この規定は現在でも有効で,首都近郊にカジノ施設は存在しない。1987年には従来認められていなかったスロット・マシーンの設置が認められることになり、これが人気を呼び,ゲーミング・ブームが起こる。一方、1988年1月5日付法律第88‐13号(通称、シャバン・デルマス改定)により、 一定の条件は課せられるが、人口50万人以上の観光都市(温泉地、海浜リゾート市等)では、施行を担う主体及びこれを支援するコミューン(基礎的自治体)による申請、国による認可を条件に、当該民間主体に国からコンセッションが付与され、カジノ施設の開設と運営が認められることになった。この87年、88年の制度改定により、今日に至るカジノの制度的枠組みの基本が固まったといえる。制度的には、段階的に、かつ、つぎはぎ的に規制や課税の制度が設けられている為、極めて解りにくいことがフランスの制度の特徴である。基本は内務大臣・公安当局による中央に集約した一元的規制・監視の体制であり、権限を分散して施行を管理しているわけではない。
制度の枠組みとしてのカジノの実現は下記の如き手順をとる(申請行為は自由だが、何処にでも、だれもが自由に設立できる考えを採用しているわけではない)。
即ち、
①カジノを施行する許諾はカジノを開設することを欲する基礎的自治体(コミューン)と施行を担う民間事業者による契約を前提として、内務大臣がこれを認める形で当該民間事業者に許諾が付与される。
②通常、基礎的自治体が公募により事業者を募り、参入の条件を交渉により合意した上で、まず事業者を(仮)選定する。市議会の同意議決を経て、選定された民間事業者が内務大臣の諮問機関である合議制の政府認可検討委員会(旧高等ゲーミング委員会)経由内務省に申請する。その後、内務省による審査、関連主体の背面調査等を経て、上記委員会の答申を受け、内務大臣が許諾(コンセッション)付与を決定する。
③上記判断は当該コミューンに差し戻され、当該コミューンの議会による承認を経て、コミューンと事業者とが契約を締結し、この枠組みの中で初めて当該民間主体に対する許諾(コンセッション)が有効になり、カジノを施行できる。
上記は、地域社会(基礎的自治体)との合意形成が手順として組み込まれていることを意味する。基礎的自治体(コミューン)と事業者との間で、施行の条件や賦課される個別の義務等の全てが合意されることが内務省による許可判断の前提になる。かかる事情により、様々な地域社会における地域的・社会的な貢献要件がコミューンとの契約の中で取り決められることが多い。尚、内務省に設置される内部的な審査のための委員会は関連する省庁や公的機関の代表を集めた大臣の諮問機関ではあるが、規制機関ではない。審査実務は全て内務省が背面調査と共に実施し、委員会の答申を得て、大臣が可否を判断する。カジノの設置許可、事業者の適格性判断、コンセッション付与の停止、剥奪等は全て内務大臣の権限である。また強力な権限を持つ内務省の査察官が地方警察と連携・協力し、施行の監視を担うことになる。税率は従前は粗収益全体に対する逓増率であったが2009年12月予算法案で、課税スケールを広げ、税率を下げる改定が行われ(10%から80%の逓増率)、かつ課税対象をゲーブルゲーム収益とスロット・マシーン収益に分けて徴収することが行われている。その他カジノ事業者は、事業所得税、資産税、付加価値税、社会保障分担金(CRD,粗収益の3%),社会貢献負担金(CSG、スロット・マシーン収益の68%の1割分)等も負担せざるを得ず、その負担はかなり高い。
フランスの制度は税法も含め、かなり複雑な法体系として構成され、緻密な法的整合性が図られてはいるが、制度としては第五共和制以前の旧法に依拠し、制限的・抑制的でもあり、現代社会においては古い体質のものである感は歪めない。またその基本は、内務省が全ての許可権限を中央集権的に保持し、施行を管理・監視するという内容になり、現代社会では古い考え方になる。尚、税率も欧州の中ではかなり高い部類に入る。一方、インターネット・カジノ(スポーツ・ブッキング、インターネット・ポーカー、インターネット競馬)は2010年5月12日付法律第2010-476号により新しく導入された賭博種になり、国の独立した機関が認可、規制と監視を一元的に担う仕組みをとっており、伝統的な陸上設置型ゲーミング・カジノとは異なる枠組みになる。