欧州各国は地理的に隣接し、人、資金、物、情報の移動に、大きな制約要因は無く、制約要因も少ない。また、その歴史、文化、自然は大きな観光資源でもあり、人々の域内における移動を活性化してきたという背景がある。かかる事情により、欧州では、観光産業の育成や観光の促進には、国毎に大きな政策的配慮が為され、観光産業は、巨大な産業クラスターを形成している。観光資源の多様性は欧州各国の特徴でもあるのだが、どう顧客を国や地域が取り込めるかの競争も存在し、いかに地域の観光資源を豊かにし、顧客の満足度を高めるかが地域間の競争の対象ともなっている。
この意味では、都市や観光地において、地域における観光の魅力を増やし、来訪客を増やすことは、一国にとり重要な施策となっている。欧州各国にとり、集客力があり、話題性、魅力のある施設を設けて、多様なサービスを提供することは、観光促進や観光客誘致に効果的と見られている。来訪観光客に対し、娯楽やエンターテイメントを提供することも、欧州においては明確に観光の重要な一要素でもあり、ゲーミング・カジノの施行を認める事も、観光促進、観光客増、旅行客誘致のための一つの政策的手段となっている。この場合の観光客とは、自国民である事もあれば外国人であることもある。季節毎に多様な旅行や観光を一国内あるいは国境をまたがえて、人々が楽しむ伝統がある欧州諸国民にとって、国境という概念で地域を括ることにはあまり意味がない。多様な観光資源を提供できれば、地域の魅力を増大し、人々を集客し、また消費を増大させることができる。多種多様な顧客を惹きつける魅力を発揮できる地域が、結果的に集客力を高めることができ、地域を活性化することができる。欧州における競争の実体は、国と国との競争というよりも、地域間、都市間という競争の側面が強く、地域間における観光客争奪競争に着目することにより、欧州の実態を正確に把握することができる。
但し、ゲーミング・カジノの場合、市場・地域が制度により、分断され、これらがお互いに潜在的に競合状態にある場合、外部から来訪する観光客・旅行客に依存することができるカジノ施行は極めて限定された地域や施設でしかない。大都市、著名な観光地、もともと集客力のある避暑地や避寒地、あるいは国境周辺や交通の便の良い都市等では、かかる運営が可能になる。所謂米国流のリゾート・カジノ・ホテルは現状の欧州では、まだその数は限定されており、既存の観光資源に依存し、これを補完するような機能の施設が主流になっている。もっとも、これ以外に存在する欧州のゲーミング賭博施設は、多様な外国人観光客や旅行客を顧客の一部として包摂しながらも、一定地域内の住民をも主要な顧客対象とする市場戦略を実践しているといってよい。賭博行為としてのゲーミング・カジノはロッテリーや競馬、あるいはその他のスポーツ・ブッキング等と同様に、庶民にとっての娯楽やエンターテイメントの一要素という側面をも保持している。観光客がこれを楽しむのと同様に、地域住民もこの中で楽しむという構図になる。欧州においても、カジノにて楽しむ顧客が一般化・大衆化していることは間違いなく、カジノは地域社会にとっての観光資源の一つであると共に、地域住民にとっての娯楽の手段ともなっており、その施行は多様な側面を持ち、尚かつ多様な効果をもたらしている。
既に説明したように、欧州においては国毎にカジノに係わる政策や施行のあり方が異なり、多様な制度的あり方や、施行のモデルが存在する。これらの中で何らかの共通要素や傾向を見出すことは必ずしも単純ではない。各々の国において過去の歴史や文化に差異があり、その施行のあり方は各国の歴史的、文化的、社会的な影響を色濃く反映し、必ずしもこれらを同一に論じることはできない為でもある。欧州経済市場の単一化にも拘らず、地理的には数時間しか離れていない地点同士で、異なった制度による、異なったカジノの施行が行われているのが現実である。但し、これら制度上の差異にも拘らず、米国やその他の国と比較した場合、欧州的な特徴も散見することはできる。
ではどこに欧州ゲーミング・カジノ施設の特徴を見出すことができるのであろうか。