如何なる判断基準で区域(地方公共団体)を指定することになるかは、制度上の大きな選択肢でもある。国が限られた数の地方公共団体を指定する以上、公平かつ公正な指定の判断基準を法定し、透明な手続きを経て、地域が指定されるべきであろう。政治的・恣意的な判断に基づき、地域の指定がなされるとしたならば、地域間の不公平感が増大し、制度として安定しなくなってしまう。また予め特定の地域が選定されることが決まっているとしたならば、国民や地域におけるカジノ誘致の熱意も消え失せてしまう可能性もある。よって、制度上は、公平性、公正性を貫徹する中立的な考えの下に、あるべき地域指定の判断基準の基本的考え方を法令の中で定めおくことが適切である。誰もが納得しうる合理的な判断基準が必要となる。その詳細の考え方や手順は、法制定後、「複合観光施設区域の地域指定に関する基本方針」を主務大臣が定め、閣議決定経て、透明性の高い判断基準、手順に基づき選定プロセスが胎動することが好ましいといえる。勿論、区域選定に際しては、中立的な立場から審査・評価ができるよう、主務大臣の下に第三者機関(審議会)を設け、評価・審査の任を委ねることが適切であろう。
では如何なる判断基準により地域指定をすべきであろうか。国が固定的な考えを地域に押し付け、地域の主体性や独自性を損ねる考え方は適切であるとも思えない。国は一定の判断基準を示しつつも、地方公共団体が、地域独自の自由かつ創意工夫のあるコンテンツを提案でき、これらが正当に評価される考えを基本にすべきであろう。例えば下記項目等がありうる。
① 法が定める政策目的への準拠、適合性:
法は、観光振興、地域経済振興等一定の政策目的を複合観光施設区域の実現やその中におけるカジノ施行の前提としている。この大きな政策目的に準拠しつつ、地域固有の政策目的を実現する具体の提案であることが全ての前提となる。国の政策に準拠しながら、地域としてこれをより詳細化し、実現する工夫や仕組みの計画提案が提示されることが必要である。この意味では、何でもありではない。かつ、背景や事情も地域毎に異なることより、全てが類似的な提案である必要もない。地域なりの独自性や創造性が認められるべきであろう。
② 地域社会における諸政策との整合性と政策効果:
複合観光施設区域を設定する具体の政策は、当該地域における様々な既存の長期的な政策やビジョン(例えばインフラ施設整備計画、長期的な経済振興施策、地域開発計画、観光振興計画等)との整合性が保持されるべきであり、この枠組みの中で、観光振興・地域振興の核として複合観光施設区域を定義し、実現する提案が求められる。かつまた提案がもたらす期待される政策効果も具体的に定義されるべきであろう(この場合、経済的な効果の大きさよりも、その影響度や効果の在り方に着目すべきである)。
③ 社会経済影響度評価:
カジノを含む複合観光施設を実現した場合、如何なる社会的、経済的影響度がありうるか、プラスとマイナスの側面から、その社会的な影響度を予め評価しておくことが必要な前提となる。好ましい効果と共に、否定的な影響もありうること、その影響度を正確に把握し、認識することが全ての前提となる。
④ 地域社会に生じうる否定的な諸問題への対応施策:
プラスの側面を地域社会として享受しつつも、地域社会に生じうる否定的な側面は、その対応措置を予め把握・検討し、選択肢の在り方や、必要となる財源の手当ても含めて、実践することを予定しておくことが地域住民や地域社会の信頼と支持を得ることに繋がる。
⑤ 地域住民による合意形成・同意取得:
如何なる施策も地域住民の合意や同意が無ければ、必ず後刻反対運動等が生じ、施行自体がうまくいかない可能性が高くなる。そのメリット、デメリットも含めて、住民に基本的な施策を明らかにし、議論を興し、地方議会の同意取得を実現しおくことが全ての前提となりうる。地域の合意形成を予め取得することは、立法府や行政府のみの恣意的な判断に対する拮抗力ともなり、手順としての透明性が高まることに繋がる。
⑥ 提案の実行性・実現可能性:
如何なる企画提案も、実行性が無ければ絵に画いた餅になってしまう。かつかかる企画提案を実践して、投資を担う主体が出てこなければ、実現できない。この意味では提案の実行可能性は大きな判断基準の一つになる。
指定の判断基準は、あくまでも大きな考え方、枠組みとして構成し、相対比較ではなく、提案自体が持つ効果や影響度の在り方、国の政策に照らした適合性や戦略性・将来性等を考慮しつつ、これら全ての側面に亘るスコアリングにより判断する手法を採用すべきであろう。