公営競技は1990年をピークにその利用者数と総売上額は年々加速度的に減少しつつあり、ファン離れや、売上減少が止まらない趨勢にある。2000年代以降の様々な公営競技の不振は、多様な要因によるが、売上は減少しているにも拘わらず、開催費用は高止まりし、その売上収益で、交付金や開催費用を賄えなくなってしまったという単純な理由が苦境の大きな原因になっていた。選手の賞金から、掃除のおばさんまで、業務の割には費用や人件費は高く、周囲の環境が激変しているにも拘わらず、費用減の努力を怠り、収支を管理できなくなったつけがきたともいえる。2006年の公営競技関連法の改正は、特殊法人改革による公営競技関連特殊法人の法人形態の変更と共に、これら苦境にある公営競技を救うための経営効率化や、様々な支援策を制度上講じることがその目的でもあった。開催返上が続いていた一部地方公営競技を何とか持ちこたえさせる様々な施策が導入されたことになる。
この結果、例えば、特殊法人の企業化、一部類似的な特殊法人同士の合併、交付金の一部返済猶予(猶予であって、免除ではない)、より人気が出る投票券の販売を認めると共に、民間事業者に対する一種の包括的な委託の概念が一部公営競技で認められることになった。この考えは、苦境にあえぐ競輪競技から始まったが、その後その有効性が認知され、その他の公営競技においても、かかる包括的委託の考えを認める制度的措置がなされたものである。もっとも、包括委託といっても、完璧な責任委託制の考えではなく、一部法律上、公的主体の固有の業務とされた業務を除く業務の中途半端な委託であり、全ての開催費用を民間事業者が管理できる内容とはなっていない。この基本的な考えは下記になる。
① 開催費用のリスク・需要リスクは受託事業者:
競技を開催する権限や施行日数・時間等条件の設定は当然公的主体にあり、受託民間主体にとり自由な選択肢はない。年一定回数の開催がなされることを前提に、売上を推計し、需要リスクと開催に必要となる開催に関する諸経費のリスクを民間主体が取ることが基本になる。この意味では、受託事業者にとり収入を管理し、増大させる手段は限定的になるが、開催費用のリスクを取ることになる。費用の縮減は、努力し、実現できるだろうが、どう収入をどう増やせるかに関しては、民間事業者に対し、必ずしも自由な裁量権が付与されているわけではない。
② 自治体にとっては、固定収入保証方式:
地方公共団体の取り分は、予め協定でこれを定め、一種の収入保証方式的な考え方をとり、実際の収益、費用の多寡とは関係なく、年間を通じて固定的な収入を支払うことを民間主体が保証する(但し、大きな金額とはならない)。収入や売上を増やすあらゆる努力を民間主体はするであろうが、現実的には開催日数の上限がほぼ決まっており、開催回数を増やすことは無理で、個別の開催毎に顧客を増やし、賭け金を増やすか、投票券を場外で売ることを拡大するしか売上拡大の手法は無いことが現実になる。但し、これを管理することは、必ずしも単純ではない。
③ 法律上、自治体の固有業務は委託対象外:
一方費用に関しても、全ての費用が民間主体の裁量範囲になるわけではない。自治体固有業務として法令による取り決めがある業務(例えば選手関連費用、審判費用等)に関しては、自治体業務のままであり、これは言われたままの費用を民間事業者が負担することになり、受託事業者が自らの裁量によりコントロールできない領域になる。これ以外には、収益の一部を自治体に保証して支払う必要があるが、費用を縮減し、売上を伸ばせば伸ばす程、受託事業者の利益が増えるという仕組みになる。自治体固定収入方式は、売上が減少し、固定的な条件の下で費用を管理せざるを得ない状況下では公的部門にとり有利となるため、十分機能する手法である。一方、売上が順調に増えていく環境下では、かかる仕組みが機能し、実現するモチベーションは自治体には起こり得ない。この意味ではインセンテイブ設計が中途半端な委託行為でもあり、かかる考え方が汎用的に使えると判断することは、必ずしも適切な考えとはいえない。
運営費用を合理的にかつ、できる限り縮減する努力や売上拡大等を図ること等は、本来公的主体にとっては苦手な行為になる。包括委託の考えは、費用を管理し、収益を上げるという競技を運営する責任から自治体を開放することに繋がり、これは実質的には、公的部門の競技経営からの撤退に近い側面をもっている。もっとも民間主体にとっても、かなり制約の多い委託業務であり、費用管理や自治体の収入保証を考えた場合、必ずしも成功を約束された事業になるというわけでもなく、利益を確保するためには相当の努力を必要とするのが実態である模様だ。自治体は名目的な主催者、管理者として、利益配分のみを享受すればよく、その他の全ての費用の管理及び収益の確保は全て民間事業者に委ねることが、本来の「包括責任委託」になる。制度上の制約により、これは実現できていないのだが、自治体の固有義務が施行の公正さを担保すると主張する意見はあまりにも現実を無視した、既存の体制を守りたいとする守旧派の意見でしかない。自治体の固有義務を法律上定義する必要性は最早存在せず、これを、公正さを担保する合理的な規律に代替させ、本来の包括責任委託を志向し、実現することが公営競技の効率化に資する考え方であるともいえる。