様々な経緯を経て、カジノの立法化を目指す超党派議員連盟となる「国際観光産業推進議員連盟」が成立したのは、2010年4月となった。この設立時点で、共産党・社民党を除く、民主党・自民党・公明党・国民新党・みんなの党等の衆参両議院議員総数74名で超党派議連が構成された。カジノに関する立法化の実現が本来の議員連盟設立の目的でもあったのだが、現実にはより広義の政策目的が議員連盟の名称となり、広義の意味での観光振興や地域振興を企図する枠組みを志向しており、参加する議員の思いも、必ずしも一枚岩ではなかった。但し、与野党の政治家が一緒になり一つの枠組みとして行動することは、当時の政権交替後では画期的な事象でもあった(民主党は2010年春以降、個別議員が野党と政策を共有し、議連を組成することを認め始めたが、この議連はその初めてのケースとなった)。与党民主党が主体になり、推進し、これに野党各党が賛同し、参加する場合、政治的な推進母体としては強固な枠組みとなるはずで、実現への可能性は大きく前進することになると想定された。
当初、民主党の幹部議員は、「戦略的観光ハブ推進基本法案」として、飛行場・港湾・関連インフラ・国際会議場等の集客施設等を戦略的ハブとして推進・実現する法案を内閣法で構成し、これにぶらさがる形で、「特定複合観光施設区域整備法案」を議員立法で策定し、後者が実質的な「カジノ法案」となることを考慮していた。カジノ・エンターテイメントを国の戦略的な観光ハブ実現の一環として整理し、まず基本法で考え方を位置づけ、これに基づき、特別措置法としてカジノを特定複合観光施設区域の鍵となる要素として認めるという考え方になる。では、この内、カジノを実現するための法案の基本的な考え方は如何なるものか。この基本的な構想は、2009年総選挙前の時点で、従来の自民党案を踏襲しつつ、これに民主党らしい考え方を追加して取りまとめられた。先行する自民党案をベースとしたのは、①他に具体の案を民主党として持っていたわけではないこと、②同意できる側面は積極的に同意することにより、超党派の枠組みで法案を実現しやすくできること、③検討の時間を縮減できること等という理由もあったからである。この考えを超党派議員連盟の骨格として2010年春以降、論点を整理してきたのだが、その内容は下記諸点に纏めることができる。
①カジノを含む、ホテル、会議施設、ショッピング・モール等が集積した集客施設群を特定複合観光施設と呼称し、特別に国により指定された特定複合観光施設区域の中において、一定の条件が満たされる場合、この制限された施設区域の内部においてのみカジノの施行が認められる。これを下記の如く、限定的に、かつ段階的な手法により、慎重に、確実に実現する。
②この区域設定、カジノの施行は、全国津々浦々に何処にでもできるものではなく、当面、二ヶ所に限定し、この施行の経緯を見た上で、最大全国に十ヶ所とすることを前提とする。
③上記を実現するため、区域指定を欲する地方公共団体(ないしはその一部事務組合)が国に提案申請し、国が国の政策に最も適合的な区域を公平、当面な判断基準、手続きをもって選定し、当該区域を特定複合観光施設区域に「指定」する(尚、施設群の構成に関しては、地域の特性を考慮し、柔軟な考えを取ることを前提とする)。
④上記指定のみではカジノは実現できず、指定を受けた地方公共団体が、公募により、カジノを含む特定複合観光施設を企画し、投資し、実現し、運営する民間主体を選定し、自治体との開発契約締結により、当該民間事業者に特定複合観光施設を実現させる。
⑤当該民間事業者は別途、国の機関に対し、申請し、その適格性に関する国の機関の審査を経て、同機関より免許を取得できた場合、初めてカジノの施行を担うことができる(自治体との契約は認証の対象とする。また、企業としての事業者、その主要株主、経営者、従業員等も全て免許の対象とし、使用する機材、器具、システム等も全て認可・認証の対象になる)。
⑥施行者によるカジノの運営は、厳格な規制と監視の対象になるものとし、詳細規則を制定し、規制と監視を担保するために、国の規制機関となるカジノ管理委員会を新たに設置する。
⑦国及び、地方公共団体は、施行に伴う売り上げ(粗ゲーミング収益)の一部を納付金として徴収する。国の徴収のメカニズム、使途は国民に等しくその恩恵がいくように、年金財源の一部とし、年金特別会計への補填財源とし、地方公共団体の取り分、使途は一定の制約要件のもとに地方公共団体の判断に委ねることを前提とする。
複雑な構成になるのは、カジノの施行は、自由にできるものではなく、施設総数を限定すると共に、厳格な公的管理の下で初めて公平性、安全性を期す仕組みが実現できるという考え方をとったことによる。この場合、地域や地点、施行者等を選定せざるを得ず、公平かつ透明性の高い考えや手順を前提にせざるを得なかったからである。かかる考えを担保する制度はどうしても複雑化する。もっとも、超党派議連結成時点で野党幹部に提示された法案の骨格は、一応の整合性は取られているとはいえ、様々な論点につき、明確な与野党合意ができているわけではなかった。議論を進めるため、2010年7月には会長私案として全体の枠組みを詳細に提示する法案が議連に提示され、これをもとに政治的な合意形成のための議論や関係省庁との議論が始まった。但し、この時点では、政治的選択肢の対象になる項目も多く、内容的にも未定となる考え方があり、以後の議論に委ねられた。如何にこれら選択肢の幅を縮小し、国民にとり理解しやすい内容にすると共に、国民の支持を得られるかが実現のためのポイントとなった。
尚、この超党派議連は、カジノを含む複合観光施設をIR(Integrated Resort)と呼称し、かつ自らの議連も「IR議連」と主張し始めた。