フィリッピンにはアジアの国の中では、唯一オンライン・カジノのライセンスを付与する制度と仕組みがある。申請行為に基づき、これを審査して、オンライン賭博のライセンスを付与する仕組みとなるが、制度的な整合性は担保されているとはいえ、適切な法の執行がなされているのか否か、またそもそもしっかりとした規制の下に、清廉潔癖性が担保される仕組みや制度と言えるか否かについては極めて疑わしい側面がある。歴史的には2000年に国営会社であるPagcor社がSports & Gaming Entertainment Corpと呼称する民間企業にフィリッピンにおけるオンライン賭博の独占権を付与したのが始まりだが、これにはその後、恣意的な権利付与として政府内部で反対が起こり、実質的にこのサイトは閉鎖される憂き目にあっている。2002年に、独占事業ではなく、ネット賭博市場を競争市場化するという政府指導のもとに、Pagcor社は、規制を担うと共に、自らがオンライン賭博を提供する仕組みを実践し始めた。オンライン・カジノのパートナー兼共同事業者となったのは上場企業で大手企業となるPhilweb Corpで、Pagcor社ブランドでオンライン賭博を提供しており、ここでも規制者と運営事業者が一体化し、規制の在り方が良く見えない制度の在り方になっている(自らの活動を規制することが事業性悪化に繋がる場合、規制の在り方は確実に甘くなり、全く実効性が無くなってしまう)。
一方、ややこしいことにフィリッピンでは別の法的枠組みに基づき、別のオンライン・カジノ賭博の仕組みが制度的に認められている。根拠法は 2003年カガヤン経済特区・自由港双方向ゲーミング法(Cagayan Economic Zone & Free Port Interactive Gaming Act)で、同国北部の自由港であるカガヤン特別経済特区(CEZFP)においてのみ、同地域のカガヤン経済特区機構(Cagayan Economic Zone Authority、CEZA)が規制者、ライセンス付与者としてオンライン賭博のライセンスを与えることができる法的仕組みになる。18歳未満は参加禁止で、ソフトウエアのソースコード(設計図)、規則等は全て認証の対象となり、17年間のライセンスが付与される。事業者の資格や適格性に関しては法にその判断基準が規定され、厳格な審査を受けること等が前提となるが、果たしてどの程度厳格にこれが実施されているのか等に関しては極めてグレーである。この規制当局(Authority)は法律により、規制者としての立場と機能及び、マスター・ライセンスを保持し、かつサブライセンスを付与できる権限を第三者に譲渡できるとある。この結果、民間主体であるFirst Cagayan Leisure and Resort Corporationがマスター・ライセンスを獲得し、実質的なライセンス付与主体となった。既にこのライセンスを受けた主体は40社に及び、日本語対応のサイトも存在する。尚、ライセンスの手続きを早めるために、 CEZAは、Pagcor社を含む政府のエージェンシーからの事前許可無しに、申請を独立的に許諾する法的な権限を付与されている。必要なコストは名目的な申請料と共に、粗収益に対し2%の年間ゲーム税負担だけである。制度的には、ライセンス者の清廉潔癖性の審査や監査、ソフトウエアの審査等も全てこの民間企業が実施することになる。但し、現実に審査は実施されているのか否か、本当に信頼おける主体が担っているかに関しては大きな懸念がある
この様に、フィリッピンでは、法律上の形式的整合性は保持されてはいるが、現実問題としてこれがどう機能しているのか、果たして健全かつ安全なサイトと言えるのかに関しては、極めてプ―アーな状態でしかないというのが現実でもあろう。
下記がその問題点となる。
① 国としての統一的な規範ではなく、特定地域を特区の如く指定し、この中でのみ、ある程度自由にオンライン・カジノ事業者を認めるという考え方になるが、発想としては海外事業者の投資誘致でしかなく、海外に向けた事業を展開させるという外貨獲得手段の手法に近い。この意味では規制の在り方は限りなく甘くなる。実質的な規制や管理は無いと判断すべきであろう。
② 規制者としての権限は、経験も能力もあるとは想定できない経済特区機関に付与され、かつこれが特定の民間主体にマスター・ライセンスを付与し、このマスター・ライセンスを得た民間主体が任意にライセンスを第三者に付与できる仕組みになっている。これでは単純なビジネスとしてのライセンスの切り売りでしかなく、果たして公正・公平な判断基準で事業者の選定がなされていると言えるのか大いに疑問がある。この結果、事業の清廉潔癖性は極めてグレーとなる領域が構成されてしまっている(事実我が国のネットカフェで賭博行為として関係者が逮捕された事案の過半がフィリッピンをベースとした事業者との絡みであることが過去何度も存在した。かなり如何わしい主体が関与しているという事実は間違いないように思われる)。
③ マスター・ライセンスやサブライセンスの仕組み、規制機関の機能や役割を民間事業者に丸投げする仕組みは、限りなく規制の内実を薄くする効果があり、これでは何の為の規制か解らなくなってしまう。規制とは本来実際の行為を担う主体を対象とすべきだが、多層化された許諾の仕組みと形式的な審査や許可では殆ど意味が無い。これでは、犯罪の温床になっているという懸念を払拭することはできない。