インターネット賭博は、顧客にとってのリスクが大きいことが一つの特徴になるが、逆の立場から見た場合、インターネット賭博を正当に提供する事業者にとってのリスクも存在する。ネット賭博はシステムとして不特定多数の顧客に提供されるため、個別の顧客の個人データーは把握していても、如何なる顧客が、どのような行動により、ゲームに参加しているかを、事業者は把握することができない。勿論、問題があれば監視し、チェックをすることは可能だが、全てを常時、事業者はチェックできているわけではない。
事業者の立場から見た場合、下記リスクがあるといわれている。一部リスクは事業者にとってのリスクでもあるが、一般顧客から見た場合でも、間接的に被害を受けることもあるリスク類型になる。
① 顧客同志がつるんでいかさまを担う行為:
例えばインターネット・ポーカーでは胴元は場を提供するのみであって、この場に複数の顧客が参加し、ゲームを競うことになる。場は数百になることもあり、事業者はこのゲームには参加せず、個別のゲームの進行をモニターしているわけではない。この環境を悪用して、一つのバーチャルな場を特定化し、意図的に複数の顧客が同じ場に参加し、お互いが情報を交換しながら、確実にグループで戦略を立て、儲けようとすることができる。このゲームに参加している普通の他の顧客が、通常ではおこりえないゲームのパターンを認識し、事業者に通告、事業者がデーター記録をトレースし、疑わしい行動を特定できることがある。あるいは、事業者が監視ソフトウエアを用い、顧客の全ての手を分析し、異常なパーターンを特定化することも実施されている(特定の顧客が常にグループで現れ、平均以上の勝ち方をする場合、監視ソフトウエアがこれら顧客を特定化し、疑わしい行為を発見することになる。当然のことながら、かかる場合には、直ちにゲームは停止され、被害を被った他の顧客には賭け金を返済し、加害者は以後参加を禁止されることになる。インターネットでは、顧客同志がつるんでいかさまをすることは物理的には何時でも可能となる状況が存在することになり、通常特段の配慮がなされている。
② 顧客がゲームに自動的に参加できるソフトウエアを駆使してゲームに参加する行為:
ポーカー・ボッツ(Poker Bots)と呼ばれるソフトウエアがあるが、何とポーカー・ゲームに自動的に参加できるプログラムである。必ずしも強いわけではないし、勝つとも限らないとのことだが、一定時間、一定予算内で、機械的にゲームに参加し、人工的知能を用いてゲームに参加することになり、時間をかけることで勝つこともありうる。通常かかる人為的プログラムを用いることは禁止されている。機械には一定のパターンがあり、顧客がこれを発見することもあると共に、やはり事業者が監視ソフトウエアにより、人間には見られない異常な行動パターンを特定化できることもある。人間同士でのゲームに人口知能が参加すること自体、ゲームの進行が歪むと共に、他の顧客が何等かの損害を被るリスクもゼロではない。
③ 顧客によるマネー・ロンダリング行為:
陸上設置型カジノの場合と同様に、インターネット・カジノでも、巨額の金額を預託し、実際は僅かの金額しか用いずに、一定期間経過後、残額をクレジット・カードにクレジットさせれば、効果的なマネー・ロンダリングが成立することがある。あるいは、特定の顧客同志が同じ場で、意図的に負け、意図的に身内に勝たせるという形で資金のやりとりを実施することもあり、かかる行為がマネー・ロンダリングに用いられることもある。一方、インターネット・カジノの特色は、全ての取引と金銭のやり取りが記録され、事業者及び規制当局の監査の対象になりうる点にある。通常の場合、事業者及び規制当局が監視ソフトウエアにより、異常な取引を特定化することができると共に、事業者による資金の送金先を特定の金融機関の特定口座に固定し、顧客の選択の幅を限定することなども平行的に実施されている。
このように、インターネット・カジノはお互いに相手が見えないという特性を利用し、顧客がいかさま行為や違法行為をする確率も極めて高くなってしまう。陸上設置カジノの場合には、好ましくない顧客はブラック・リスト化され、カジノ施設間・あるいは規制機関同士でこれら情報が共有され、好ましくない顧客を締め出す仕組みがあるが、インターネット・カジノにはそもそもかかる仕組みは存在しない。
尚、ネット賭博取引の主体の基本は、マスとなる一般顧客であって、所謂高額賭け金者はいないという特色がある。少額賭け金、多数の顧客を対象にするビジネスモデルでもあり、大きな取引や、目立つ取引はあまりなく、リスクの在り方も通常の賭博の世界とはかなり異なることになる。