上記「オフショア群島開発法」の改定の動きに伴い、いち早くカジノ招聘の声を上げ、積極的に活動を開始したのは、中国本土と台湾の中間地点にある澎湖諸島(ペングー島)である。ペングー島は、有権者人口73,651人で、観光以外には目ぼしい産業は存在せず、アクセスも飛行機やフェリーとなり、必ずしも利便性の高い場所とはいえない離島になる。経済建設委員会報告書によれば、かかる離島であっても、カジノ誘致により5,000人の直接雇用、15,000人の間接雇用、50万人の来訪観光客を期待することができ、想定収益は台湾ドルで1000億台湾㌦(米国30億㌦相当額)を期待できるとある。
ベングー島地方政府は、上記法改正に伴い、直ちに住民による直接投票によりカジノ誘致の是非を問う事を取り決め、2009年9月26日に直接住民投票が行われた。結果は、住民の内42%が投票に参加し、有効投票数の内、賛成40.2%(13,397人)、反対59.71%(17,359人)でなんと否決されてしまった。台湾の「直接投票法」(Referendum Law)では直接投票(レフェレンダム)が有効であるためには、本来有効投票者の50 %以上が投票しなければならないが、この案件に関しては、投票者の数に拘わらず、単純多数決による結果により法的拘束を受けるとされた。尚、同じ場所で再度レフェレンダムができるのは2年後となり、この間、当面ペングー島でのカジノ実現は無いことになる。住民投票に際しては、反対派となった「カジノ反対ペングー同盟」(Penghu Alliance against Casino)がマスコミをも活用した組織的な反対運動を効果的に実現し、民意を得たことにより、住民意思が反対に大きく傾いたというのが現実のようである。勿論これにより、基本法の枠組みが無くなるわけではなく、ペングー島もあるいはその他の離島も当然のことながら、カジノ設置を主張できる制度的枠組みは存在し、これが否定されたわけではない。当初考慮された手順は、住民投票による可決、その後年内迄に議会でゲーム運営規則法の制定、二事業者の選定を予定していたが、結局これが大幅に遅延することになる。
その後、2012年3月に至り、今度は馬祖島(マツ島)の地方政府が名乗りを上げ、カジノ誘致の直接住民投票がなされることになった。マツ島は、人口1万人で2つの小さな島から構成され、フェリーで中国本土(Fujan)からは30分以内、一方台湾には1時間程度の距離となり、中国本土へのアクセスが近い地理的場所にある。2012年6月7日に実施された住民投票では、投票適格者は7,762人、有効投票率は40.76%で、賛成が57%(1,795人)、反対43%(1,341人)となり可決された。この投票結果に伴い、行政院も本格的な立法作業を加速させることになる。行政院はゲーミング関連所轄官庁を行政院運輸部(MTC, Ministry of Transportation and Communication)とすることに決定。2012年7月11日同省次官は、①2012年末までにゲーミング実施法案を国会に提出すること、②これとは別に統合リゾート法案をも国会に提出すること、③マツ島にある既存の二つの空港(Beigan, Nangen)を改修・拡大する予算措置を図ることを表明している。同島にある飛行場は6座席の飛行機の離着陸が可能な小さい施設のみで、これを74座席の飛行機が離着陸できるようにするという(あくまでも離島空港であって、大型機が発着できる国際空港ではない。中国との至近距離にあるため、国際空港では政治的反対が起こると共に、そもそも物理的にも滑走路2000メートル級以上の空港は無理である) 。
上記に伴い、台湾におけるカジノの制度化への本格的動きは2012年後半より実質的に胎動し始めた。マツ島は確かに中国本土からは至近距離にあり、中国顧客を集客することには有利な地点にあるが、果たして今後とも中国・台湾の政治的関係により、顧客の流れが途絶えることはないのか、かかる離島カジノは海外投資家の注目を浴びることができるのか、台湾国内顧客を十分集客できる魅力ある施設となりうるのか、投資が実現するか否かは現状では一抹の不安要素もある。かかるオフショア島開発が成功するか否かは、ひとえに中国政府が中国人による賭博の為の台湾渡航を認めるか否かに依存すると共に、例え認められたとしても、中国政府が一方的にこれを禁止した場合、ビジネスとしては成立しなくなってしまうリスクがあるからである。尚、台湾本島に統合リゾートを創るならば、話は全く異なり、一部にはこれが実現できるとする声もあるが、制度そのものをゼロから構築せざるを得ず、議会や国民の同意を単純に取得できるほど甘くはないと判断すべきであろう。