韓国では刑法第246条、247条の規定により、賭博行為及び賭博開帳行為は刑法上の罪を構成し、原則賭博行為は認められていない。一方刑法第20条(正当行為)において「法令による行為または、法令に基づく業務による行為、その他社会的常軌を逸脱しない行為は罰しない」とある。よって、別途正当性を確保する枠組みを法律として制定することで違法性を阻却することが可能となる制度上の仕組みとなっている。この刑法上の制度的構図は我が国を模したものである。この根拠に基づき、韓国には、ゲーミング賭博(カジノ)、競艇、競輪、競馬、サッカーくじ、ロッテリー、数字ロッテリー等が各々特別立法措置により認められている。
この内、ゲーミング・カジノの制度は韓国では、独自に発展したという経緯がある。1967年に制定された「観光振興法」において、カジノは外貨獲得を目的とした観光振興に資する観光の要素として定義され、制度的に認められることになったことがその契機となる。観光振興による外貨獲得を目的に、限定された民間事業者に認可を与えることで当該民間事業者に対し、設置場所毎に認可を与え、カジノ営業を認めるという内容でもあった。1967年当初は専ら、駐韓米軍の遊興施設として仁川で開業され、当初は韓国人の入場も認められていた。その後、組織暴力の関与や社会的秩序の乱れ等が生じ、これが社会的な問題となり、1972年に法律が改正され、内国人(韓国人)の入場は禁止され、外国人・外国籍旅客のみが入場できる施設(即ち、外国人専用カジノ)となって今日に至っている。現状国内に16施設が存在する(観光振興法、第27条1項、4号は、この法に基づくカジノ施行者に対し、内国人の入場を禁止する義務を課している)。16の施設はソウル(3)、インチョン(1)、キョンギュー(1)、プサン(1)、ジェジュ(8)、ソクチョ(1)に位置している。
これら韓国で発展した外国人専用カジノ施設とは、限定された枠組みの中で、外国人を隔離した状態で、外国人に対してのみエンターテイメントとしてのカジノを提供する仕組みでもあった。この意味では内国法との矛盾はなく、かつ法制度も極めて簡素なものでしかない。法は当初警察庁が所管していたが、カジノを規制産業ではなく、観光産業と位置づけるとの同国の観光政策の変更により、1994年に文化体育部(その後省庁再編により文化体育観光部に変更)に移管され、カジノを含む観光行政も全て同部に移管されている。1999年に観光振興法は再度改正され現在に至っているが、かかる事情により、カジノ制度はその規制や監視の在り方を含めて精緻な内容ではなく、厳格な規制の下にあるとは言い難い。
よって、カジノ業は、文化体育観光部による単純な認可事業として構成され、このためだけに個別の規制機関やカジノ業に関する特別の法の執行の体制がとられているわけではない。観光振興法は、第20条から29条までが、カジノ業に関する法規定になり、①認可要件、②認可取得、資格欠格事由、③施設基準、④営業許可、⑤カジノ器具の企画及び基準、⑥営業種類・営業方法、⑦指導及び命令、⑧事業者遵守規定、⑨利用者遵守規定、⑩観光振興基金に対する交付金納付義務などを規定する。制度上は、施設設置には一定の判断基準が設けられているが、実質的には厳格な「運用」により、設置の可否が政治的に決められてきたのが現実となる。よって、単純な形で施設を自由に、いくつでも設置できるという仕組みではない。尚、法第26条は、「過度な射幸心誘発の防止等公益上必要があると認める場合には、カジノ事業者に対して必要な指導と命令を実行できる」ことを規定し、政府による包括的行政指導権ないしは裁量権を認めている。この認可は単純な認可行政の枠組みにおける営業許可で、違反等の場合には、当然取り消しの対象となるが、制度や規制の考え方としては極めて緩いものでしかない。また、行政府の裁量性の範囲が広く制度的に認められており、必要な場合には、公安当局が随時介入できる体制をとることでバランスをとっているともいえる。
制度としての特徴は下記にある。
① 法及び施行令は、カジノ業の運営・監視・管理に関し、詳細を規定せず、基本事項のみを定めるに留め、主務官庁による指導と命令や行政府による大きな裁量権の行使が認められていることが、その制度的特徴になる。この意味では制度としては、行政府による恣意性が強くでる仕組みでもあり、透明性に欠ける。
② 一方、カジノの運営・経営手法に関する規制は、顧客自体が外国人旅客に限定されるため、限定的なものでしかない。この結果施行者による大きな経営的裁量の余地があることも事実となるが、施行者による清廉潔癖性や適格性の検証という制度的規定はなく、規制の内容自体も極めて甘い。
③ (外国人専用)カジノ事業者は、総売り上げ(総粗収益)の10%相当額を観光振興開発基金法に基づく観光振興開発基金に納付金を支払う義務がある。これは税ではなく、特別会計への納付金となり、観光振興に関わる特定公益目的のための財源として利用され、支出される。
④ 施行令は、カジノの許可要件の基本として、第一等級ホテルの中で業を為す場合、及び、外国間を往来する旅客船の中で業をなす場合に限定し、かつ新規許可は、最も直近に許可を付与した日以降に、外国人旅客が30万人以上増加した場合において2業者のみ可能としている。但し、前述した通り、現実には政治的・行政的裁量に左右され判断がなされている。尚、この規定を根拠に2006年韓国観光公社がその子会社(Grand Korea Leisure Corp)を通じてソウルに2ヶ所、プサンに1ヶ所外国人専用カジノを追加したという経緯がある。その後、カジノの総数は増えていない。
一方、これら外国人専用カジノは、ソウルやプサン等、交通の便が良い、大都市以外は殆どが赤字採算になり、規模も極めて小さいものでしかない。観光振興の名目で、金大中政権時に規制緩和に伴い、かなりの外国人カジノ施設が全国に設置されたが、その殆どが赤字経営というのが現実である。効果的な外国人の集客と消費に結びついていないのであろう。