オーストラリア、ニュージーランドいずれもがOECD.FATF(Financial Action Task Force。先進国首脳会議のアルシュ・サミット会合によりできた国際連携組織で国際間における金融犯罪防止等を目的とし、各国に内国法に基づき類似的な規制や制度的枠組みを創ることを推奨している)の考えに準拠した考え方と体制をとり、国単位で金融規制の一環としてマネー・ロンダリング犯罪対応の為の規制を敷いている。
オーストラリアでは1988年「連邦金融取引報告法」(1988 Financial Transaction Reports Act)並びに2006年「反マネーロンダリング・テロ対策金融法」(2006 Anti-Money Laundering counter Terrorism Finance Act)の規定に基づき、連邦政府検事総局のエージェンシーである「オーストラリア金融取引報告・分析センター」(AUSTRAC ~Australian Transaction Reports & Analysis Center)が全てのマネー・ロンダリング関連情報を統括する。基本的な役割は事業者からの金融取引情報の徴求と関連する当局との情報共有、連邦税務当局へのアドバイス、金融取引業者に対する指示・通達・ガイドラインの制定、金融諜報情報の分析と関連連邦政府・州政府警察当局への必要な指示・連携・協力などになる。同法に基づき、カジノ運営事業者は現金取引業者と定義され、AUSTRACに対し、疑わしい取引、金額の大きい取引の取引相手を特定化し、取引の内容に関する報告義務を負う。具体的には、資金積み立て、引き出し、小切手受領等に際し、本人確認義務、A$1万㌦以上の現金取引報告義務、全ての国際間取引報告義務、金額に拘らず疑わしい取引の報告義務などになる。これら報告はFTA情報(金融取引情報)と呼称され、カジノ事業者よりオンラインでAUSTRACに提出される仕組みとなっている。この連邦政府機関が、連邦警察、州警察、州政府規制当局等と情報の連携を図りながら、不法行為や違法行為を摘発する体制をとっている。
カジノ産業に関する具体的なガイドラインとしては、疑わしい取引報告に関しての詳細規定が特例として存在する(AUSTRAC Guideline 5 Suspect Transaction Reporting Casino) 。報告の対象となる金融取引情報(FTA)としては取引相手の氏名、住所、職業、生年月日、本人確認に利用した書類、自己取引か他人名義の為の取引か等になる。カジノにおける金融取引のあり方は単純金融行為以上に複雑で、かつマネー・ロンダリングを誘引しやすい構図をもっており、報告件数も多いと共に、精緻な監視の対象になっている。また事業者従業員の不断の教育・訓練や関連当局との連携・協力体制が緊密にとられている。
ニュージーランドでも同様に1996年「金融取引報告法」(1996 The Financial Transaction Reporting Act)及び2009年「反マネー・ロンダリング・金融テロ対策措置法」(2009 Anti-Money Laundering & Countering Finance Terrorism Act)において、銀行その他の広義の意味での金融機関に対し、NZ$1万㌦以上の金融取引行為に関して顧客の本人確認、取引記録の保持、疑わしい取引の報告、特定の国際取引の報告等が義務づけられており、カジノ事業者もこの範疇に入る。マネー・ロンダリング対応の政府所管省庁は「ニュージーランド警察・金融諜報部」(Financial Intelligence Unit)が担い、報告もこの金融諜報部になされるが、犯罪収益部(Proceeds Of Crime Unit)がこれを支援する体制が取られている。尚、金融取引に係わる情報はニュージーランド関税局、重要犯罪局(Serious Fraud Office)で共有され、必要に応じ、これら組織が動く体制が前提となっている。
尚、上記政府の統合的な所管省庁とは別に、分野別に規制者が存在し、これが上記金融諜報部と協力しながら、実際の金融行動をモニターする体制が取られている。例えば、「ニュージーランド準備銀行」(RBNZ)は銀行、生保、ノンバンクを監督・監視し、「証券取引委員会」が、債券発行体・信託人、フューチャーのデイーラー、ブローカー等を監督・監視する。また、内務省がカジノ、両替商等を監督・監視するという風に関連当局が、分担しながら、業を監視する体制がとられている。
両国いずれもFATF勧告に基づき、マネー・ロンダリング対策を国の施策として位置づけ、管理・監視体制を厳格に施行しており、関連しうる主体と情報を共有し、違法行為・不法行為を摘発できる組織的な対応が取られていることが特色となる。