欧州市場の中でスペイン程賭博制度が複雑に絡み合っており、分り難い国はないかもしれない。スペインでは伝統的に様々な賭博やゲーム等が実施されてきたのだが、過去また現状も伝統的な地上設置型のゲーミング・カジノ施設の規制と監視・監督は17の自治州に課税権と共に委ねられてきたのが実態である。国は限られた政策調整しかしておらず、実質的に州毎に異なった制度がバラバラに存在し、極めて分り難いというのが現実でもあった。かかる状況の下で、現状では主要都市や観光地に44のカジノ施設が存在する。この現状を変え、制度的な全体調整を図ろうとする動きが生じてきたのは、自治州の権限を越えるオンライン・ゲーミング等の新たなゲーム種が市場に提供され始めたためで、この存在を認知して、規制する必要に迫られたという事情による。
この結果2011年に制定された法律が2011年5月27日付法律13/2011号「賭博規制法」(Gambling Regulation)になる。この法律により、初めて賭博法体系の全体像が規定されることになったが、伝統的な陸上設置型カジノは従来の考え方を踏襲し、自治権を保持する州政府が規制・監督・監視を担うと共に、当該管轄区域内の賭博規制・政策の権限を担うことが再確認されている。一方、立法の本来の趣旨は、自治州単位で規制される賭博種ではなく、国家単位での規制が必要となる賭博関連規制(National Gambling)で、「電子的、双方向的並びに技術的手段をもって提供されるゲームの運営」とされ、あらゆる種類のインターネットを介する賭博行為並びに従来公的主体が担ってきたロッテリーをも法による規制の対象にしている(SELAE社, ONCE社という二つの国営会社により施行されていたが、2011年予算法に基づきSELAE社は株式30%を民に売却する方針とされ、売却は2012年実施された)。即ち地域に密着してサービスが提供される陸上設置型カジノの規制は自治州に委ね、それ以外の州を跨る形でサービスが提供される賭博種を一括して、国法により規制の対象にするという他国にはない面白い構図となった。
上記法律13/2011号に基づき、国が担う賭博の規制権限は、経済大蔵省、「国家賭博委員会」(National Gambling Commission, Comision Nacional del Juego)、「賭博政策諮問会議」の三者が関与することになった。内、賭博政策諮問会議とは、経済大蔵省の政策諮問会議となり、政策の調整や方向性の諮問を受ける会議体となるが、17の自治州の代表も参加する。経済大蔵省は、この賭博政策諮問会議の議を経て、個別のゲームに関する規則を公布する。国家賭博委員会は実質的な規制者としてライセンスを付与し、市場を監視・規制し、運営事業者との係争解決、一般公衆の利益の保護、違反の場合、運営事業者に対する罰則の賦課等の規制者としての包括権限を担う。一方、同委員会は賭博政策諮問会議とも協議し、国と自治州との政策調整にあたる仕組みとなる。
新たな法律に基づき許諾の対象となったインターネット賭博種のライセンスは3つに分かれる。即ち①一般ライセンス(ベッテイング、ラッフル、トーナメント等その他のゲームを対象とし、期間10年、更新10年が可能で、賭博行為を組織化し、顧客に提供することを可能にするライセンス)②個別ライセンス(個別のゲーム毎に必要となるライセンスで期間は1年から5年)、③単発的ライセンス(単発的に実施されるゲーム毎に付与される認可)になる。2011年12月に約60の民間事業者が一般ライセンスを申請、2012年にはライセンス付与の可否判断がなされた。ライセンスを取得する事業者はスペインに設立した企業ないしはEU企業である場合、最低1名のスペインに常時駐在する代表・代理人必要とされ、事業者は、dot.esと呼ばれるドメインからの運営を義務づけられる。また当該事業者の財務的健全性を監視する手順が規定され、事業者による保証も必要となる。一方、サーバーは認証の対象となるが、委員会がモニターできる限りスペイン国内設置義務はないが、委員会判断により二台目のサーバーをスペイン国内に設置することを要求できるとある。税率は賭博種によっても異なるが、粗収益税(Gross Profit Tax)として、10%から25%となり、スポーツ・ベッテイング、競馬、パ・リミュチュエル賭博は売上税(Turnover Tax)として各々22%、15%になる。かつ賭博行為は、付加価値税(VAT)は適用除外である。一方、これに加え、国家賭博委員会の費用に充当されるため、事業者売上の1%が年毎事務費用(administrative fee)として徴収されると共に、ライセンスの申請(1万€)、認証(3万8000€)にも費用がかかる。
スペインは、伝統的に賭博行為に関しては許容的な風土があり、地域単位での規制や施行がなされていたのだが、インターネット賭博の解禁と共に、様々な賭博種が、サイバー世界と現実の世界の両方で提供されるようになってきており、市場が拡大しつつあるといえる。