スイスでは、国の機関として新たに設けられた「連邦ゲーミング委員会」(Commision Fédérale des Maison des Jeux, Federal Gaming Board)が規制当局の任を担う(「賭博及び賭博施設法」第10章)。同委員会は、連邦政府評議会(政府)が任命する専門家5名により構成され、独自の事務局を保持する。組織的には、この委員会は、連邦政府司法警察省の下に設置され、この委員会が規則の制定、民間事業者の審査、選定とライセンス付与、施行管理や監視を国の組織として一元的に担う仕組みとなっている。但し、ライセンス付与やその施設数等の重要事項の最終判断は連邦政府評議会(政府)自身に帰属し、審査や背面調査等の実務は委員会所掌となるが、かかる重要事項の最終判断権限を保持するわけではない。また、監視システム、テーブル・ゲーム、スロット・マシーン、ジャック・ポット、トーナメント、検査等に係る技術要件の定義や運営手法詳細を定める権限、射幸心を煽る行為をどう規定するかなどは、(委員会ではなく)司法警察省の所管となり、同省の政令で取り決め、その遂行と管理、監視のみをカジノ管理委員会が分担するという形式をとっている。一方、法の執行に関しても、特段の組織を設けているわけではなく、既存の連邦司法警察省、州(Canton)政府司法当局が、州警察、あるいは地方政府(Commune)レベルにおける警察組織と連携し、協力しながら、現場に委ねるという基本的な構図になる。委員会は、違法行為の場合、罰金を賦課したり、ライセンスを停止したり、剥奪したりすることはできるが、法の執行に関し、自らが公安当局を代替するという機能は無い。尚、マネー・ロンダリングに関しては別法(「金融セクターにおけるマネー・ロンダリング防止に関する1997年10月10日付連邦法」~LBA~)に基づき、この分野に関する限り、連邦ゲーミング委員会が法に基づく管理委員会とされ、スイス・マネー・ロンダリング通報局(Money Laundering Reporting Office~MROS)と連携し、カジノ産業全体を監視する役目を担っている。よって、委員会はすべての権限を保持した国の機関ではなく、①既存の連邦、州、コミューンレベルの行政機構を活用しつつ、この中に委員会の機能を組み入れ、②カジノ施設の規制と管理・監視にその権限を限定する行政委員会ともなる。
上記は、カジノ施設の規制、監視、監督は一元的に単一組織でこれを担い、法の執行は既存の行政機構の仕組みを用いる考えとなることを意味している。施設規模、施設数は左程大きなものではなく、管理できうる最少単位の行政機構を志向していると共に、スイスは本来地方分権の強い国で、連邦政府の権限や役割は限定されることが通例でもある。連邦ゲーミング委員会の規模は比較的小さく、委員5名、2011年末時点での職員総数36人、年間総費用が8.3百万SFr規模となり、これら費用は民間事業者から徴収される監視税(規制当局の運営に関する費用を事業者負担とする特別目的税)、コンセッションや認可等に際し徴収される様々な料金、罰金収入等により充当されている。
尚、ライセンス許諾の在り方にはスイス的な特徴がある。施行の許諾には、州(Canton)並びに末端行政単位となる地方政府(Commune)の意思が尊重されると共に、連邦委員会より設置許諾と運営許諾という二段階による許諾構造が特色になる(法第10条)。施行のためは、これら二つの許可が必要となるが、同一主体が保持しなければならないということはない。
必要となるライセンスは下記から構成される。
① 施設設置ライセンス:
特定地点にカジノ施設を設置することに対する関連する州およびコミューンから、同意を取得できていることが委員会に対する申請要件となる。同時に設置される地域における経済的効果に関する報告を作成し、委員会に提出することが求められる。この設置ライセンスだけではカジノは施行できず、下記②が同時に必要となる。
② 施設運営ライセンス:
ライセンス付与の要件として、定款、組織、施設設置許諾者との契約関係、その他の契約関係が経営の独立性を保証していること、申請者が施設の運営に関する警備安全プログラム、社会的危害対応措置プログラムを提出すること、経済的に事業性があることを証する事業計画や適切な課税を可能にする対応策を提示すること等が求められる。また、申請者が施設設置許諾者と同一でない場合には、設置許諾保持者からの同意取得が必要となる。原則コンセッション期間は20年、違反等の場合には当然許諾剥奪となる。申請は委員会あてとし、評価・審査は委員会が担い、最終判断は連邦評議会が定め、この決定は控訴不能となる。
このようにスイスのカジノ施設設置は二つの許諾が必要となるが、現実に一つの施設が二つのライセンスで構成された案件は1件のみで、他の全ては単一事業者が施設設置許諾と施設運営許諾の両方を取得している。一見、合理的に見える手法も、手続き的に煩雑となり、利害関係が複雑化するため、事業者により忌避されたことになる。尚、連邦ゲーミング委員会も、この許諾を二つに分けるという制度手法は、現実的ではなかったことを後刻認めている。