ドイツ連邦刑法第284条、287条は、賭博行為の施行、ないしは賭博行為の仲介者となることは、その行為がなされる州により合法的なライセンスを取得していない限り、これを禁止することを規定している。現代ドイツにはもともと賭博に関しては連邦法の規定があったが、その後州政府にその管轄権が移管され現在に至っている。現行の連邦法上の規定は様々な賭博行為を州政府からのライセンス取得の対象とするということだけであって、具体の規制は16の州政府毎に委ねられ、州毎に制度があり、州毎の規制の下で賭博行為が施行されている。かかる経緯もあり、ドイツでは賭博制度には連邦政府の関与は限定的で州政府による規制が主体になる。例外は、競馬・ロッテリー並びにカジノ外に設置されるゲーム機械となり、カジノ外に設置されるゲーム機械は連邦Trade, Commerce and Industry Law (GewO)の規制対象となり、競馬・ロッテリーは連邦Race Betting and Lottery Act (RennWLottG)による規制の対象となる。もっとも、いずれもライセンス付与に厳格な規制を設ける仕組みを前提に、連邦税としての取引税等を賦課する内容で、業自体を精緻に監督・監視するという考えではなく、業としての詳細規制はやはり州単位になる。
この様にドイツでは、州による賭博規制は、賭博種毎、州毎にその内容(規制の内実や課税体系)が異なり、かなり複雑な様相を呈している。ロッテリー、ベッテイング、スポーツ・ベッテイング、カジノ等は、州政府による規制対象として16の州政府毎にバラバラに制度が制定され、規制・監視が行われている。この内、ロッテリー並びにスポーツ・ベッテイングに関しては「2004年州際間ロッテリー協定」、これに伴う個別の州政府規定により、一種の政策的な調整を行うための共通的な枠組みが州際間で合意されている。この協定並びに各州の制度により、ロッテリー及びスポーツ・ベッテイングの主催者は、各州いずれもが実質的に州政府ないしは州政府の公社に施行者が限定され、地理的にもその施行単位は州に限定されており、民間事業者にその施行が認められているわけではない。一方、カジノのライセンスに関しては、州毎の付与になるが、基本は制限的であり、州によってはライセンス付与の主体を州の機関や公社、あるいは官民JVに限定している州もあれば、一部は民間主体にライセンス付与を認めている州等もある。2009~2010年におけるドイツ賭博市場全体の売り上げは103億€となり、最大のセグメントとなる賭博種は(カジノ外に設置された)ゲーム機械になり、38億€(全体市場の38%)を占める。ロッテリーが同年売り上げ37億€(37%)、ベッテイングは約20億€ (19%)、カジノは5.36億€(6%)である。
ドイツにおける上記の閉鎖的な制度的あり方にも近年、変化が生じつつある。2006年16の州の閣僚が参集し、州際間賭博協定(Interstate Gambling Treaty、IGT)の締結を提唱した。これは①州際間における賭博依存症問題に対する共通的な政策的対応の実施、②各州における賭博行為の過激なマーケッテイングの禁止、③ドイツ国内において競馬を除くあらゆるオンライン賭博の禁止(インターネット・サービス・プロバイダーISP経由外国の違法サイトのブロック、違法インターネット賭博のドイツに所在する商業銀行経由支払決済の禁止等)等を含むもので、かなり抑制的な国としてのネット賭博に関する規制内容となる。EU委員会は、差別的となるこの協定はEU法に矛盾することを指摘したにも拘らず、2008年に2012年1月までの時限付でこの州際間賭博協定が成立した。この結果、2008年から2010年迄ドイツ賭博市場全体が縮小し、あらゆる賭博種において売上、収益、税収が落ち込むという事情が生じている。2009年には外国民間事業者が、この閉鎖的な州際間賭博協定をEU法違反として欧州裁判所に提訴、2010年欧州裁判所はEU法違反を判示した。この結果、州際間賭博協定も2011年末に改定され、2012年6月に批准されたが、オンライン・スポーツ・ベッテイングのみを(ライセンス数を20に限定、5%の売上税を課し)、認めるという部分解禁の内容となった。但し、オンライン・ポーカーやオンライン・カジノは禁止の対象となったため、EU委員会はその制度的整合性を問題にし、2年以内に是正を要求するに至っている。
一方2011年5月に、Schelswig Holstine州は単独で上記州際間協定を否定する動きを取り、独自に、オンラインによるスポーツ・ベッテイングを認める方向性を提唱、州議会でこれを可決した(Schelswig Hostine Gaming Act)。オンライン事業者にライセンスを付与して認め、売上に課税すること(粗収益の20%)がその趣旨になる。一方、この法律が可決された後に、同州では選挙で政権交代があり、新たなSPD党政権は、この法律を破棄し、州際間協定に参加することを表明した。但し、単純にはいかず、法規定に基づき淡々と認可事務手続きは継承され、結局2012年末までにスポーツ・ベッテイング、オンライン・ポーカー等15社以上にライセンスが付与されてしまい、先行きが不透明になってしまった。
この様に、ドイツの賭博制度事情はかなり混沌とした状態にあるが、上述した通り、欧州裁判所はドイツの州際間賭博協定を不適切とし、かつ欧州委員会もこれがEU法違反なることを指摘しており、早晩その改定を迫られることは間違いない。但し、これがドイツ賭博の市場全体に如何なる影響をもたらすかに関しては不透明な状況が続くと思われる。