射幸性判断基準とは、過度に射幸心を煽るゲームの提供の在り方を規制するために、賭け事として提供されるゲームのルール、賭け方、あるいは電子機械等が提供する理論的な控除率・期待率などに一定の人為的な判断基準を設けて規制する考えをいう。スロット・マシーン等の電子機械ゲームの確率的控除率ならばシステム・ロジックの問題で一定の明確な判断基準は設定できようが、その他の場合には、どの段階から射幸心を煽る行為といえるのか、如何なる行為が射幸心を煽るといえるのか等は極めて主観的な基準となり、必ずしも明確な客観的判断基準があるわけではない。顧客の賭け心を煽り、賭博行為にのめりこむほど、射幸心を煽る行為は適切ではないとする考え方ではあるが、そもそもカジノ自体は①本来的に射幸性の高い賭博種であること、②賭け事をするか否か、射幸性の高い遊びをするか否かは優れて成人個人の責任・判断に依存していることよりして、予め人為的な価値判断基準をおき、射幸性判断基準を設定することは、必ずしも好ましい考えとはいえない。
但し、賭博行為は、制度の枠組みとして、サービスの提供を制限するという政策的意思があるため、供給のあり方が需要を決めることができるという側面が強い。よって、諸外国においても、市場全体を管理する枠組みの中で、総供給量を制限し、供給管理をすると共に、顧客自体が過度の賭博行為にのめりこまないように、賭け金上限規定や損失上限規定を設けたりして、個人の行動を規制する供給の枠組みを制度として設定することがある(あるいは電子機械ゲームにおいて顧客に対する最低ペイアウトを法定することはあるが、これは射幸性を規定するのとは逆に、最低達成すべき確率値を規定することで顧客を保護することが目的となり、市場における競争は、最低ペイアウト率以上でなされることが通例になる)。但し、個別のゲームのルール、あるいはゲームの提供のあり方まで、規制当局が介在し、一定の判断基準を設けて規制するということはなされていない(スロット・マシーンやビデオ・マシーン等は電子機械であるために、理論的には規制をかけることが可能だが、テーブル・ゲームでは、ゲームのルールがあるのみで、賭け方次第で射幸心を煽る行為になり、規制は殆ど意味がなくなる。例えば、一つの行為に100円を賭けるか、10万円を賭けるかは、個人の判断であって、その個人の行動が結果的に射幸性の高い行動になっているということはありえよう。一方、豪州では近々個別のゲーム機械にプリ・コミットメントシステムと呼ばれる機械・ソフトの設置が義務付けられることになるが、これは顧客が予め一日あたりの遊びの上限額を設定しなければ遊べない仕組みで、顧客が過熱化し、はまり込んだ場合でも、当初定めた金額以上の遊びはできないという仕掛けになる。賭け金総額を規制することで、強制的にやめさせる考えとなるが、如何なる効果があるかは、今後の検証が必要であろう)。
よって機械ゲーム等では最低のペイアウト率を確率的に設定し、一定の枠組みの中で、顧客に対し遊興としてのゲームを提供することは、顧客や消費者を保護するという意味では適切な考え方となる。但し、予め射幸心を煽る行為の判断基準を設定し、何らかの規制措置を設けることは、カジノ遊興の面白さと長所を大きく損ねるものになりかねないことに留意する必要がある(一方遊技は、国民に安心、安全で安価な時間的遊興を与える遊びで「賭博」行為ではないとする前提があるために、射幸心を煽る行為を規制することが規制上の前提になっているのであろう。但し、その判断基準は必ずしも客観的、合理的であるとも思えない。カジノは賭博である以上、必ずしも遊技と同じ立場に立つ必要は無い)。
この意味では、ある賭博ゲームの提供が、射幸心を煽る内容であるか否かは、市場や顧客が判断するのであろう。特定のゲーム種や機械式・電子式賭博ゲームが、顧客の関心を呼び、加熱化するということは、顧客にとってのペイアウトが良かったりすることが多いが、顧客にとっては悪い話ではない。但し、現実的には単純、確実に儲かることはありえないのが賭博でもある。この意味では、制度として考えるべき射幸性判断基準とは、下記のごとき考えが適切ではないかと考える。
① 機械式・電子式賭博ゲーム、その他の機械を用いるゲーム種に関しては、一定の技術標準、最低ペイアウト率を設定すると共に、一定の枠内で健全な形で顧客が遊べる内容であることが好ましく、このための規範の設定は必要である。かつ、公平性と健全性を保持するために、使用する機械・器具・機材等については、不正やいかさまが起こりえない規範と規律が必要となる。但し、射幸心を煽るという判断から予め、何等かの規制をかけることは好ましくない。
② テーブル・ゲームその他のゲームに関しては、原則全てのゲーム種、適用ルール(遊び方)、確率値を規制当局に申請させ、認可の対象とすべきであろう(この場合、極端に偏ったルールや遊び方、不公正と判定できる遊びや賭け方を排除すると共に、問題が無いと想定されるものは、原則認めることが基本となるべきである。
③ 全ての賭博種に関し、例え、許可後であっても、そのあり方が後刻社会的な問題を引き起こしたりする場合には、規制当局が許可の取り消しや修正要求などができる形で裁量権を保持することがバランスの取れた公正な考え方になる。予め規制は設けないが、問題が生じた場合には、何時でも是正できる権限を規制当局が保持してさえいれば、市場を適切な秩序の下に管理することは可能であろう。