マサチュセッツ州は2011年11月22日に成立した「拡大ゲーミング法(Expanded Gaming Law)」に基づき、新たに三つのカジノを含む複合観光施設の投資誘致を実現しようとしている。これを実現するため、規制機関としての「マサチュセッツ州・ゲーミング委員会」(Massachusetts Gaming Commission)が知事の任命、議会の承認を得て、創設された。2012年以降、新たなカジノ施設の制度設計・事業者選定の手順を踏みつつあるが、従来には無い、様々な斬新的なアプローチや考え方により、規制機関の在り方そのものを大きく変える試みがなされている。
即ち下記等になる。
① 市民参加型の透明な制度設計の実現:
規制機関の会議議事録や公聴会等はどの州でも公開の対象となるが、その詳細記録は市民にとり手軽にアクセスできる情報とはなっていない。一方、新たな制度設計を図ったマサチュセッツ州では、全ての委員会はオープン、議事もネットで公開し、かつ全ての議事をネットからビデオで誰もが過去の議論の過程をトレースできる。透明性、公正性を保持し、参加型の制度設計と施設の実現を企図していることになる。市民のための普及フォーラムや教育セッション等も全てネットで公開されており、手順や議論の過程に関する透明性は抜群に高い。具体の設置場所選定や詳細を決める規則等の詳細も、今後オープンに議論しながら詰めていくという手順となり、意思決定の過程を詳細にフォローできる体制を取っている。
② 事業者の適格性認証と事業者選定を分離して処理するアプローチ:
ゲーミング・カジノを実現する場合、新たに制度を設け、規制機関を創設し、規則やルールの詳細を決めると共に、具体の事業者を選定、認証するというかなり長い手続きを必要とする。効率の良い、かつ質の良い集客施設を実現するために、市場の規模を考慮し、施設数を限定する施策が取られるためにかかる手順が取られるわけである。この場合、①民間事業者の提案を受領し、評価し、特定の地域における特定の民間事業者を選定することと、②当該事業者の適格性を検証し、免許(ライセンス)を付与することという二つの手順が必要になる。これらは本来別の主体が担った方が合理的なのは、提案の良さと事業者の適格性を同じ判断基準で決めることは適切ではないとする考えがあることによる。但し、これでは時間も手続きもかなりかかってしまう。事業者提案の評価・選定と当該事業者の適格性を分けて評価することができれば、手順も時間も短縮できる。マサチュセッツ州はこれを二段階手続きで実践することを考えた。即ち、第一段階はRFA-1(申請要請Request for Application)で、通常の資格審査ではなく、応札者の財政、企業、個人の清廉潔癖性をある程度突っ込んで、その資格及び適格性を精査する(応札準備に5ヶ月、審査に8ヶ月を想定する)。即ちこの段階で企業、株主、経営者等の構成員を含む適格性の審査・背面調査をまず実施する。第二段階としてのRFA-2は上記審査をパスした事業者のみに、かつ特定地点を確定した上での提案となり、これが実質的な免許申請(License Application)となる(応札準備に3~6ヶ月)。この時点迄に、応札事業者は、ホストするコミュニテイー並びに周辺のコミュニテイーとHost Agreementを締結し、住民投票により、地域社会としての同意を取得する必要がある。その後審査に3~6ヶ月を要し、ライセンス付与者(即ち、選定事業者)を決定し、同事業者にライセンスが交付されることになる。
③ 地点選定は上記手順の中で、関連する基礎的自治体と事業者候補に委ねる:
検討されている新たなカジノ施設は3ヶ所、大まかな区域をA,B,Cと設定し、具体の地点選定は地域コミュニテイーと事業者に委ねられる。地域コミュニテイーが声を上げ、招致するケースもあれば、民間主体が地域コミュニテイーを選んで、交渉に入るケースもありうる。上述したRFA-2の提案提出時点前に、民間開発事業者とホスト・コミュニテイー並びに周辺コミュニテイーが自由に合い、交渉し、合意形成を図ることが期待されている。但し、同州ゲーミング法は、マサチュセッツゲーミング委員会がホスト及び周辺コミュニテイーが民間開発事業者と条件交渉するに際し、適切な技術支援その他の専門家支援を実施し、必要な資金を負担することを明記している。また、当該費用は最終的には選定事業者から回収することを規定している。
④ 競馬を所管していた競技委員会を廃止し、業務をゲーミング委員会に統合:
賭博行為自体の規制の簡素化、合理化、統一化の考えに基づくもので1年間の移行期間を経て、既存の競馬を所管していた競技委員会の業務をゲーミング委員会に統合することが実施されつつある。
地域選定(Siting)と事業者への免許交付(Licensing)は各々複雑な手順を必要とし、様々な手法、考えがある。またこれらを組み合わせる手法にも様々な考え方があることを上記は示唆している。更に全ての情報や判断のプロセスを公開しながら、段階的に実現を進めていく手法も極めて斬新的な手法である。